スカッド

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テンプレート:Infobox Weapon スカッド(Scud)は、ソビエト連邦が開発したR-11弾道ミサイルと、その改良型地対地ミサイルに付けられたNATOコードネームである。スカッドを独自に改良したミサイルが各国で開発されており、これらのミサイルが総称としてスカッドと呼ばれる事もある。

Scudとは英語で"ちぎれ雲"、"風に流される雲"の意。

概要

ファイル:Scud Launcher.jpg
TEL上のスカッド

スカッドは、第二次世界大戦中にドイツが開発したV2ロケットソ連版拡大コピーであるR-1(SS-1A)を元に、OKB-1(後のコロリョフ設計局)によって1950年代初期に開発が始まり、1957年にR-11(SS-1B Scud-A)がソ連陸軍(当時戦略ロケット軍はまだ無かった)に配備された。この後、マケイエフ設計局によって推進系が改良され射程が延びたR-17(SS-1C Scud-B)が開発、配備されている。新たなスカッドは、敵部隊や指揮地点、飛行場といった重要拠点を破壊する用途を与えられていた。

ソ連海軍では1970年代前半に、スカッド(ソ連名エルブルス。エルブルスコーカサス山脈の最高峰)の垂直発射型艦対地ミサイルである「エルブルス-M」を、搭載艦であるミサイル巡洋艦「プロイェークト1080」とともに開発していたが、SS-20 ピオネル中距離弾道ミサイルの開発が優先されたために、搭載艦とともに開発中止となった。プロイェークト1080は空母戦力を持たなかった当時のソ連海軍がその代替として計画したもので、50基を4つ、計200基のVLSを備える予定であった。

このようにソ連でも重用されたスカッドであったが、1989年に登場したスカッドDがオリジナルの最終型とされている。終末誘導に目標照合レーダーを搭載したタイプで、CEPが50mと大幅に改善している。 スカッドDを除き、現在では旧式化しており、ソ連のScud-A/Bは、1980年代にOTR-23 Oka(SS-23 Spider)に置きかえられて退役した。しかし、旧東側中東諸国などでは現在でも多数が実戦配備されている。

NATOアメリカ軍はスカッドを四種類に分類しており、NATOコードネーム(DoD番号)はそれぞれ、スカッドA(SS-1b)スカッドB(SS-1c)、スカッドC(SS-1d)、スカッドD(SS-1e)と呼称している。

スカッドは主にTEL(Transporter Erector Launcher 輸送起立発射機)と呼ばれる大型の車両に載せられて移動するため、機動力に優れている。このTELは発射台も兼ねており、発射時にはスカッドは90度起立する。この仕組みは後の東側諸国の弾道ミサイルでも多用された。

拡散と利用

ファイル:Rakieta wz8K-14 SCUD RB.jpg
ポーランドの兵器博物館に展示されているR-17(8K14)
DoD番号はSS-1C、NATOコードネームはScud-B

冷戦中のソ連は、当時の友好国への軍事援助として多数のスカッドBを輸出した。

スカッドが初めて実戦利用されたのは、1973年第四次中東戦争だった。エジプト軍は休戦の直前にイスラエルへ4発のスカッドBを発射した。1発はイスラエルが占領していたシナイ半島のアリーシュ港に、2発はイスラエル軍スエズ運河における橋頭堡を目標とした。

スカッドは基本的なロケットに近く、比較的簡素な構造のため、技術力の乏しい国でもある程度の水準があれば複製が可能で、一部の国では模倣品や拡大改造版が製造された。北朝鮮1976年エジプトから2基のスカッドBを入手し、リバースエンジニアリングをおこなって弾道ミサイル技術を習得した。北朝鮮はスカッドを基にして射程1,500km以上の準中距離弾道ミサイルノドンを開発した。一方で構造が比較的簡素とはいえ、北朝鮮以外の国は複製に失敗したといわれている。

北朝鮮は弾道ミサイル開発を外貨を獲得する手段として用いており、複製ができなかった国を中心に輸出を行った。スカッドとノドンをエジプトシリアリビアイエメンイランパキスタンなど多くの国に輸出している。製品の他に製造技術も売却しており、イラクのアル・フセイン、パキスタンのガウリ、イランのシャハブ、シリアリビアの独自改良型などの多くのミサイルを生み出した。

1986年に行われたアメリカ軍リビア爆撃の際には、リビアから報復としてイタリアランペドゥーザ島に置かれていたアメリカ沿岸警備隊LORAN施設にスカッドが発射されたが、目標を外れた。

イラン・イラク戦争では双方の国によって大量のスカッドが利用された。イラクはソ連から購入したスカッドとその派生型アル・フセインを520基発射し、イランはリビアから購入したスカッドを177基発射した。双方の首都が目標となり、市民の犠牲者も発生した。

ソビエト連邦のアフガニスタン侵攻では2,000基に及ぶミサイルが発射され、また、湾岸戦争ではアル・フセインがイラクからサウジアラビアに45発、イスラエルに40発が発射され、アメリカ軍はパトリオットミサイルを用いて迎撃した。チェチェン紛争でもロシア軍が使用している。

技術的特徴

スカッドは、短距離弾道ミサイル(SRBM)に分類される1段式の常温保存液体燃料ロケットである。 発射する場合は垂直に弾体を設置し、燃料を注入し、目標を入力設定する。この作業には1時間ほどを要するため、仮に敵軍に発見されると容易に破壊される脆弱性はある。ただし、スカッドは通常、自走式発射機などに搭載され、移動するため、発射前に位置を特定する事は困難とされる。

また、燃料注入状態でも90日間は保管可能と考えられているため、運用次第で即応性を保つ事は相応に可能とされる。 発射されると、予定された高度や速度に達するまでロケットモーターが作動する。スカッドは通常高度100kmまで上昇し、その後は運動エネルギーのみでマッハ4の速度で目標に突入していく。スカッドDにおいては終末誘導も加わる。通常の弾道ミサイルはロケットモーターの燃焼が終わると、弾頭が切り離されていくが、スカッドは基本設計が比較的古いため、ロケットモーターと弾頭部分は一体のまま落下していく。ただし、スカッドDと北朝鮮が開発したスカッドERや拡大改造したノドンは弾頭部分が切り離される。

弾頭としては、ペイロードにあわせて高性能爆薬を用いた通常弾頭の他に核兵器化学兵器生物兵器などの大量破壊兵器を使用可能である。通常弾頭の中にもクラスター爆弾などのいくつかのバリエーションがあるとされる。各ミサイルの仕様は以下の通り。数値のいくつかは推定値であり、資料により表記にばらつきがある。

スカッド
NATOコード スカッド-A スカッド-B スカッド-C スカッド-D
DoD番号 SS-1B SS-1C SS-1D SS-1E
ソ連名称 R-11 R-17
配備年 1957年 1965年 1970年代 1989年
退役 1978年    
全長 10.7m 11.25m 11.25m 12.29m
直径 88cm 88cm 88cm 88cm
燃料 ケロシン硝酸 UDMHIRFNA UDMH、IRFNA UDMH、IRFNA
発射重量 4,400kg 5,900kg 6,400kg 6,500kg
投射重量 950kg 985kg 600kg 985kg
誘導方式 慣性 慣性 慣性 デジタル画像照合付き慣性誘導
弾頭 (50kT) 核(50-70kT)、化学、通常 通常 核、化学、通常[1]
射程 130km 300km 575-600km 700km
推定CEP 4,000m 450m 900m 50m
  1. Scud-Dの通常弾頭は、高性能火薬による単一弾頭の他に、40個の子弾子を散布する滑走路破壊弾頭、5kgの対人子弾子を100個搭載したクラスター弾頭燃料気化弾頭などが開発されている

関連項目

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外部リンク

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