チアミン

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テンプレート:Chembox チアミン (thiamin, thiamine) はビタミンB1 (vitamin B1) とも呼ばれ、ビタミンの中で水溶性ビタミンに分類される生理活性物質である。分子式はC12H17N4OSである。 サイアミン、アノイリンとも呼ばれる。日本では1910年鈴木梅太郎がこの物質を米糠から抽出し、1912年にオリザニンと命名したことでも知られる。脚気を予防する因子として発見された。

糖質および分岐脂肪酸の代謝に用いられ、不足すると脚気神経炎などの症状を生じる。酵母豚肉胚芽類に多く含有される。

補酵素形はチアミン二リン酸 (TPP)。

構造

2-メチル-4-アミノ-5-ヒドロキシメチルピリミジン(ピリミジン部、OPM、構造式左半分の六角形の部分)と4-アミノ-5-ヒドロキシエチルチアゾール(チアゾール部、Th、構造式右半分の五角形の部分)がメチレン基を介して結合したもの。生体内では、各組織においてチアミンピロリン酸(チアミン二リン酸)に変換される。チアミン二リン酸は、生体内において各種酵素の補酵素として働く。チアミン三リン酸は、シナプス小胞において、アセチルコリンの遊離を促進し、神経伝達に関与するといわれている。

生理活性

血中濃度は通常68.1±32.1ng/mLで40ng/mLを切ると脚気などの欠乏症状があらわれるといわれている。リン酸基は構造式右側のヒドロキシ基(OH基)に結合する。結合するリン酸の長さにより、チアミン一リン酸 (TMP, thiamine monophosphate)、チアミン二リン酸 (TPP, thiamine pyrophosphate)、チアミン三リン酸(TTP, thiamine triphosphate) がある。

物性

  • 分子量 300.81
  • 水溶性。加熱により可溶性が増す。
  • アルコールに不溶。
  • 無色。
  • アルカリ条件下で容易に分解。
  • 弱酸性条件下で安定。

CAS番号 59-43-8

多く含む食品

日本人においては、摂取総量の半分を穀物から摂取しているといわれる。

酵母は、アルコール発酵によりピルビン酸を脱炭酸してエタノールを生成することができ、ピルビン酸デヒドロゲナーゼ (テンプレート:EC number) の補因子であるチアミンを自ら合成できるとともに、培地に存在するチアミンを吸収し、細胞内に集積することができる。種によっては、その乾燥重量の10%近くのチアミンを集積できる[1]

摂取時の注意

一日の所要量は成人男性で1.1ミリグラム、成人女性で0.8ミリグラム。加えて、摂取エネルギー1,000キロカロリーあたり0.35ミリグラム必要とされる。

基本的に、調理における損失が多く、食品中に含まれる総量のうち半分から1/3は失われていることを考慮する必要がある。水溶性なので素材をあまり水にさらさない方が良く、米を磨ぐ際は手早く少ない水量で行うのが良いとされる。あるいは、麦飯玄米あるいは強化米の利用もよいとされる。調理の際の煮汁、ゆで汁への流失が大きいので、これらを利用する調理法が良いとされる。

アルカリ条件下において分解が進むので、調理の際に重曹を利用するときはその点を考慮する。ニンニクに含まれるアリシンと結合し、アリチアミンとなると吸収効率が向上する(詳細はニンニクを参照のこと)。

強度の労作や、消耗性疾患の罹患により要求量がかなり上昇する。脂質の摂取により、要求量が少し減少する。体内での貯蔵量は非常に少ない。吸収効率が高くないため、進行時の脚気など、胃腸が弱っているときには吸収しきれないこともあり、この時は高吸収率のビタミンB1誘導体を摂取する必要がある(一般にも市販されていて、アリナミンAなどが有名)。水溶性であるため過剰に摂取しても問題ない。

欠乏症

慢性的に不足している条件では、神経系(脳を含む)におけるグルコース利用が困難になるため、多発性神経炎症状が出やすくなるといわれる。

アノイリナーゼ

アノイリナーゼ(=チアミナーゼ)は、ビタミンB1を分解する酵素である。アノイリナーゼは、ワラビぜんまいコイフナなどの淡水魚の内臓、はまぐりなどに含まれる。また、加熱すれば通常この酵素は失活する。アノイリナーゼを産生するアノイリナーゼ菌を腸内細菌として保有しているヒトも数パーセント存在しているといわれている。ただし、この菌を保菌していたとしても、脚気の自覚症状、他覚症状を呈することはほとんどない[2]

過剰症

長期間の多量投与における障害は、現在のところ知られていない。過剰に摂取されたチアミンは速やかに尿中に排泄される。

生化学

各組織においてチアミンピロホスホキナーゼ(EC 2.7.6.2)の作用によりチアミン二リン酸に変換される。

EC 2.7.6.2 ATP + thiamine = AMP + thiamine diphosphate

チアミン二リン酸はチアミン二リン酸キナーゼ(EC 2.7.4.15)の作用によりチアミン三リン酸へと変換される。

EC 2.7.4.15 ATP + thiamine diphosphate = ADP + thiamine triphosphate

生理活性

チアミン二リン酸は、生体内において各種酵素の補酵素として、アルデヒド基転移の運搬体として働く。

例えば、TCAサイクルの入り口にある重要な反応に関わる。TCAサイクルは、細胞において糖質を代謝し、生体内でのエネルギー貯蔵形といわれるATPを合成する経路である。解糖系で生じたピルビン酸を脱炭酸してアセチルCoAに変換するピルビン酸デヒドロゲナーゼ複合体(EC 1.2.4.1、EC 1.8.1.4、EC 2.3.1.12三酵素の複合体)の反応に関与する。

pyruvate + CoA + NAD+ = CO2 + acetyl-CoA + NADH + H+

EC 1.2.4.1 pyruvate + [dihydrolipoyllysine-residue acetyltransferase] lipoyllysine = [dihydrolipoyllysine-residue acetyltransferase] S-acetyldihydrolipoyllysine + CO2
EC 1.8.1.4 protein N6-(dihydrolipoyl)lysine + NAD+ = protein N6-(lipoyl)lysine + NADH + H+
EC 2.3.1.12 CoA + enzyme N6-(S-acetyldihydrolipoyl)lysine = acetyl-CoA + enzyme N6-(dihydrolipoyl)lysine

EC 1.2.4.1の触媒する反応のうち、ピルビン酸 (CH3COCOOH) からの二酸化炭素 (CO2) の引き抜き(脱炭酸反応)において、補酵素として重要な働きを示す。

脂質の摂取によりチアミンの要求量が減少するが、これは、脂質のβ酸化によりアセチルCoAが合成され、上述の反応を迂回してTCAサイクルに供給されるため、結果として上述の反応の回転速度が落ちるためによる。同様に強い労作や消耗性疾患により要求量が上昇するのは、体内でのATP消費の上昇に反応してTCAサイクルの回転が早まるためによる。

ペントースリン酸経路においてもトランスケトラーゼによるNADPHや、デオキシリボースリボースといった五炭糖の産生に関与している。

また、アルコールの分解にも関与している。抗神経炎作用が知られているが、作用機序などは不明である。

脚注

  1. 酵母によるビタミンB1の集積、岩島 昭夫、化学と生物、Vol. 27 (1989) No. 12
  2. 松田誠、高木兼寛とその批判者たち-脚気の原因について展開されたわが国最初の医学論争、発行日 28-Dec-2007

関連項目

外部リンク

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