ゴシック

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ファイル:Peeter Neeffs (I) - Interior of a Gothic Cathedral - WGA16479.jpg
フランドル派の画家が描いたゴシック聖堂の内部

ゴシック」は、もともと中世ヨーロッパの建築様式を示す言葉である。

12世紀半ばの北フランスから始まった大聖堂などの宗教建築は、次のような共通の特徴を持っていた。第一には先の尖ったアーチ(尖頭アーチ)で建物の高さを強調し、天にそびえてゆくような印象を与えようとしていること、第二に建物の壁に大きな窓を開けて堂内に大量の光を取り入れていること[1]、そして第三に、柱を細くして堂内の空間を広く開けるために、建物を外側から支えるアーチや柱などの構造物(飛梁など)が外壁にせりだしていることである[1]

こうした特徴を持った大聖堂などの建築物は北方のヨーロッパが獲得しはじめた独自の様式だったが、均整のとれた古典古代世界の文化を崇敬するイタリアの知識人たちは、いびつで不揃いな外見などに高い価値をみとめず、侮蔑をこめてイタリア語で「ゴート人の (gotico)」と呼んだ[2]。ゴート人は北方ゲルマン民族の古い一種族で、実際には大建築とは無関係だったが、「野蛮な種族による未完成の様式」という意味をこめてそう呼んだのである[2]

ゴシックという言葉は、ここに由来している(英:gothic/仏:gotique/独:Gotik)[1]。そのため「ゴシック」はまず、そうした特徴をもつ中世ヨーロッパの建築様式を示す言葉として使われるが、絵画や彫刻など美術全般、さらには当時の哲学や神学、政治理論などにも適応して「ゴシック精神」などと称されることがある[3]

ゴシック様式の宗教建築は、建物自体の壮大さに加えて、異教の影響を受けた怪物やグロテスクな意匠がさまざまに取り込まれている点にも特徴がある。18世紀後半のイギリスでは、こうしたゴシック風の修道院や邸宅を舞台にした一種のホラー小説が流行し、それはゴシック・ロマンス(ゴシック小説)と呼ばれた[4]。「ゴシック」の言葉はここからさらに転用されて、幻想的・超現実的な趣味を連想させるファッションや音楽にも使われるようになっている。

派生

ファイル:Frontispiece to Frankenstein 1831.jpg
メアリ・シェリー『フランケンシュタイン』挿画。この作品 (1818) も、しばしば「ゴシック小説」と呼ばれる。

上記のような経緯の中で「ゴシック」は本来の用法以外にも広い意味で用いられるようになった。

脚注

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文献

美術

  • ジョン・ラスキン(川端康雄訳)『ゴシックの本質』(みすず書房、2011)ISBN 9784622076353
  • 酒井健『ゴシックとは何か 大聖堂の精神史』(筑摩書房〈筑摩書店〉、2006)ISBN 4480089802
  • 佐藤達生・木俣元一『図説大聖堂物語 : ゴシックの建築と美術』(河出書房新社〈ふくろうの本〉、新装版、2011)ISBN 9784309761558
  • 佐々木英也・冨永良子編『ゴシック』(『世界美術大全集 西洋編』第9巻、小学館 1995)ISBN 409601009X

文学

  • 吉村純司『ゴシック・ロマンスの世界』(文化書房博文社、1996)ISBN 4830107634
  • マリー・マルヴィ-ロバーツ編(金崎茂樹ほか訳)『ゴシック入門』(英宝社、増補改訂版、2012)ISBN 9784269820340
  • 武井博美『ゴシックロマンスとその行方 : 建築と空間の表象』(彩流社、2010)ISBN 9784779115394
  • 小池滋『ゴシック小説をよむ』(岩波書店、1999)ISBN 4000042483
  • ドナルド・A・リンジ(古宮照雄ほか訳)『アメリカ・ゴシック小説 : 19世紀小説における想像力と理性』(松柏社、2005)ISBN 4775400878

デザイン、ファッションなど

  • 樋口ヒロユキ『死想の血統 : ゴシック・ロリータの系譜学』(冬弓舎、2007)ISBN 9784925220224


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  1. 1.0 1.1 1.2 酒井健『ゴシックとは何か 大聖堂の精神史』(筑摩書房〈筑摩書店〉、2006)
  2. 2.0 2.1 エミール・マール(田中仁彦ほか訳)『ゴシックの図像学』(国書刊行会、1998)
  3. バルトルシャイティス(西野嘉章訳)『幻想の中世:ゴシック美術における古代と異国趣味』(平凡社〈平凡社ライブラリー〉、1998)
  4. 杉山洋子ほか『古典ゴシック小説を読む:ウォルポールからホッグまで』(英宝社、2000)