コリン・ウィルソン

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テンプレート:Otheruseslist テンプレート:Infobox 作家 コリン・ウィルソンテンプレート:En1931年6月26日 - 2013年12月5日[1])は、イギリス小説家評論家

来歴

1931年6月26日、イングランドレスターに生まれる。父親は靴工場で働く労務者であり、典型的な労働者階級の出であった。16歳で学校を去り、さまざまな仕事に就きながら空いた時間に執筆を続ける。

1956年、24歳の時、様々な文学人・文化人について「実存主義的な危機」という観点から論じた評論アウトサイダー』を発表。これが大きな反響を呼び、作家としての地位を確立。これは当時取り組んでいた小説『暗黒のまつり』の執筆を中断して一気に書き上げたものである。この期間中、ウィルソンは定職に就かず、昼間は大英博物館で執筆、夜は野宿という生活を送っていた(これらの経緯は何作もある彼の自伝において繰り返し述べられている)。

その後はその博覧強記な才能によって、殺人オカルト心理学などを独自の思想から論じてきており、自身ではこれを「新実存主義」と呼んでいる。この他、SF小説警察小説なども執筆している。

2012年の6月、脳卒中にかかり、会話する能力を喪失した[2]。翌2013年の12月に死去。

Angry young men(怒れる若者たち) 

『アウトサイダー』出版と同時期にデビューした、社会秩序に反抗的な若手作家たちのことを、ジョン・オズボーンの戯曲『テンプレート:仮リンク』にちなんで「タイムズ」紙が「テンプレート:仮リンク」と呼んだ。『怒りをこめてふりかえれ』、キングズリー・エイミスの『ラッキー・ジム』、ジョン・ウェインの『急いで下りろ』、アラン・シリトーの『土曜の夜と日曜の朝』などに代表される。

業績

アウトサイダー・サイクル

『アウトサイダー』に始まる初期のコリン・ウィルソンの実存主義思想のシリーズ。サルトルバルビュスカミュドストエフスキーニーチェジョージ・フォックスグルジェフなど、さまざまな思想家や小説家に根ざしている実存的危機を読み解き、そこから抜け出す道を模索している。シリーズでは、宗教思想、歴史学、社会学、文学、セックス、哲学などさまざまな分野の知識を駆使して、問題を追求している。

哲学・心理学

アブラハム・マズローの心理学の影響から、健康人の心理学を発展させ、独自の楽観主義を展開した。セント・ニオット・マージン、ロボットといった概念を与えている。意識と無意識との関係性を再構築する必要があると考えている。

楽観主義という立場から、サルトルの思想に含まれる悲観主義的側面を強く批判している。

殺人研究

『殺人百科』では、切り裂きジャックペーター・キュルテンなど古典的な殺人事件を扱っている。彼の殺人の哲学は、小田晋福島章など、日本の心理学者や評論家にも大きな影響を与えている。

パリの女学生を殺害した佐川一政との対談もある。

オカルト研究

1971年にコリン・ウィルソンは出版社の依頼で『オカルト』を発表した。「オカルト」ブームの発端の一人である。この時期のウィルソンは宗教や心理学には強い関心を抱いていたが、オカルティズムに対しては懐疑的だった。ウィルソンはラスプーチングルジェフを、オカルティズムを超えて評価できる思想家であると考えている。

ウィリアム・ジェームズ超常現象に対する考察「それを信じたい人には信じるに足る材料を与えてくれるけれど、疑う人にまで信じるに足る証拠はない。超常現象の解明というのは本質的にそういう限界を持っている」に対し、コリン・ウィルソンは、これを「ウィリアム・ジェームズの法則」」[3]と名づけた。

小説

ジェラード・ソーム三部作(『暗黒のまつり』『ジェラード・ソーム氏の性の日記』『迷宮の神』)では、同時期に執筆された評論と密接に関連したテーマを扱っている。『ガラスの檻』はウィリアム・ブレイク愛好者をめぐる連続殺人事件。

SFでは『精神寄生体』、『賢者の石』、『スペース・バンパイア』など、ラヴクラフトクトゥルフ神話の影響を受けた作品が多い。これはファンタジー文学の評論『夢見る力』にてラヴクラフトに対して批判的な見解を述べたウィルソンに対して、ラヴクラフト作品の編集者・出版者であり自身も作家のオーガスト・ダーレスが「自分で幻想的な小説を書いてみたらどうか」と薦めた事による。ウィルソンは『精神寄生体』のまえがきにおいてラヴクラフトへの評価を一部改める旨を述べている。

また、ウィルソンは『夢見る力』においてトールキンの『指輪物語』を高く評価していた。1980年代後半からは自身も壮大なファンタジー『スパイダー・ワールド』シリーズを執筆している。巨大化した昆虫に支配された未来の地球におけるひとりの少年の成長物語・冒険物語である。同時に昆虫の生態についての読み物でもあり、また、ウィルソン独自の「意思の力」にまつわる思想も述べられている。

文芸評論

人間の想像力の可能性から、ウィルソンはSFやファンタジーの持つ意義を高く評価する。ジャン=ジャック・ルソーの『新エロイーズ』やリチャードソンの『パミラ』によって、ヨーロッパでは想像力の飛躍的な拡大が始まったと主張している。ラヴクラフトやデイヴィッド・リンゼイなどを再評価している。

また、ウィルソンはシェイクスピア嫌いを表明していて、評論ではことごとく批判している。イギリスの劇作家バーナード・ショーを、シェリーワーグナーにひけを取らぬロマン主義者であり、ゲーテ以来の如何なるヨーロッパ作家よりも高度の客観性を備えていた、と高く評価し、関連論文も出版した(但し、ショーはシェイクスピアへのドグマ的な評価を批判しており、シェイクスピア嫌いではない)。

著作一覧

評論

  • The Outsider (Victor Gollancz, London 1956)
    『アウトサイダー』福田恆存中村保男訳 紀伊國屋書店 1957
    改訳版 中村保男訳、集英社文庫、1988/中公文庫(上下) 2012
  • Religion and the Rebel (Victor Gollanz, London 1957)
    『宗教と反抗人』中村保男訳 紀伊國屋書店、1958
    改訳版 『宗教とアウトサイダー』 河出文庫(上下) 1992
  • Beyond the Outsider (Victor Gollancz, London 1965)
    『続アウトサイダー』中村保男訳、紀伊國屋書店、1965
    改題版 『アウトサイダーを超えて』 竹内書店 1966
  • The Age of Defeat (Victor Gollancz, London 1959)
    『敗北の時代』 丸谷才一訳 新潮社 1959
  • Encycloedia of Murder (Victor Gollancz, London 1961)
    『殺人百科』パトリシア・ピットマン共著 大庭忠男訳 弥生書房 1963、改訂増補新装版 1993
  • Origins of the Sexual Impulse (Arthur Barker, London 1963)
    『性の衝動 新実存主義への道』 大竹勝訳 竹内書店 1964
  • 『性と知性』 榊原晃三訳 二見書房 1966
  • 『夢見る力 文学と想像力』 中村保男訳 竹内書店 1968、河出文庫 1994
  • 『殺人の哲学』 高儀進訳 竹内書店 1970 のち角川文庫、改題『殺人ケースブック』河出文庫 1992
  • 『コリン・ウィルソン音楽を語る』 河野徹訳 富山房 1970
  • 『ラスプーチン』 内山敏訳 読売新聞社 1970/大龍啓裕訳 サンリオSF文庫 1981
  • 『発端への旅 コリン・ウイルソン自伝』 飛田茂雄訳 竹内書店 1971/中公文庫 2005
  • バーナード・ショー』 中村保男訳 新潮社 1972
  • The Occult: A History(1971)『オカルト』 中村保男訳、新潮社 上下、1973/平河出版社 1985
  • 『純粋殺人者の世界』 中村保男訳 新潮社 1974 「現代殺人の解剖」河出文庫 1991
  • 『実存主義を超えて』 中村保男・中村正明訳 福村出版 1974
  • 『三人の超能力者の話』 中村保男訳 新潮社 1975 『超能力者』 河出文庫
  • A Book of Booze(1974)『わが酒の讃歌 文学・音楽・そしてワインの旅』 田村隆一訳 徳間書店 1975、徳間文庫 1989
  • 『驚異の超能力者たち』 木村一郎訳 学習研究社 1976
  • 『文学の可能性』 中村保男・正明訳 福村出版 1976
  • 『新時代の文学』 中村保男訳 福村出版 1976
  • 『神秘と怪奇』 安田洋平訳 学習研究社 1977
  • 『小説のために 想像力の秘密』 鈴木建三訳 紀伊国屋書店 1977
  • 『至高体験 自己実現のための心理学』 由良君美・四方田剛己(四方田犬彦)訳 河出書房新社 1979、河出文庫 1998
  • 『覚醒への戦い』 鈴木建三・君島邦守訳 紀伊国屋書店 1981
  • 『スターシーカーズ』 田中三彦他訳 平河出版社 1982
  • 『時間の発見』 竹内均訳・解説 三笠書房 1982
  • 『フランケンシュタインの城 意識のメカニズム』 中村保男訳 平河出版社 1984
  • 『右脳の冒険 内宇宙への道』 中村保男訳 平河出版社 1984
  • Lord of the Underworld, Jung and the Twentieth Century(1984)
    『ユング 地下の大王』 安田一郎訳、河出書房新社、1985、河出文庫 1993
  • 『SFと神秘主義大瀧啓裕訳 サンリオ文庫、1985
  • 『性と文化の革命家 ライヒの悲劇』 鈴木晶訳 筑摩書房、1986
  • ルドルフ・シュタイナー その人物とヴィジョン』 中村保男・中村正明訳 河出書房新社 1986、河出文庫 1991
  • 『ミステリーズ オカルト・超自然・PSIの探究』 高橋和久他訳 工作舎 1987
  • 『コリン・ウィルソン評論集 新楽観主義を求めて』 中村保男・正明訳 扶桑社 1987
  • 『現代の魔術師 クローリー伝』 中村保男訳 河出書房新社 1988
  • 『サイキック 人体に潜む超常能力の探究と超感覚的世界』 梶元靖子 訳 荒俣宏 監修・解説 三笠書房 1989
  • 『現代殺人百科』 ドナルド・シーマン共著 関口篤訳 青土社 1989、新版2004
  • 『世界不思議百科』 ダモン・ウィルソン共著 関口篤訳 青土社 1989 新版2007
  • The Misfits: A Study of Sexual Outsiders(1988)『性のアウトサイダー』 鈴木晶訳 青土社 1989、中公文庫 2008
  • The Encyclopaedia of Unsolved Myseries(1987)『世界不思議百科』 関口篤訳、青土社 1990 ※息子のDamon Wilsonとの共著。
  • 『切り裂きジャック 世紀末ロンドンの殺人鬼は誰だったのか?』 ロビン・オーデル共著 仁賀克雄訳 徳間書店 1990、徳間文庫 1998
  • A Criminal History of Mankind 1984 『世界残酷物語』 関口篤訳 青土社 上下 1990-91、新版2009
  • 『世界犯罪百科』 関口篤訳 青土社 上下 1991
  • 『ポルターガイスト』 宮川雅訳 青土社 1991
  • 『コリン・ウィルソンの「来世体験」』 梶元靖子訳 三笠書房 1991
  • 『世界超能力百科』 関口篤訳 青土社 上下 1992
  • 『連続殺人の心理』 ドナルド・シーマン共著、中村保男訳、河出文庫、1993
  • 『世界醜聞劇場』 ドナルド・シーマン共著 関口篤訳 青土社 1993
  • 『コリン・ウィルソンの殺人ライブラリー』 全4巻
    1. 『~殺人狂時代の幕開け』 中山元・二木麻里訳 青弓社 1994
    2. 『~情熱の殺人』 同
    3. 『~殺人の迷宮』 同
    4. 『~猟奇連続殺人の系譜』 同
  • 『コリン・ウィルソンの犯罪コレクション』 関口篤訳 青土社 上下 1994
  • 『二十世紀の神秘家ウスペンスキー』 中村正明訳 河出書房新社 1995
  • 『世界不思議百科 総集編』 ダモン・ウィルソン共著 関口篤訳 青土社 1995 新版2009
  • 『狂気にあらず!? 「パリ人肉事件」佐川一政の精神鑑定』 天野哲夫・佐川一政共著 第三書館 1995
  • 『饗 カニバル』 佐川一政共著 柳下毅一郎訳・構成 竹書房 1996
  • 『知の果てへの旅 思想と文学の現在』 関口篤訳 青土社 1996
  • 『ずっと、人間のことばかり考えていた。』 小川隆訳 アスペクト 1996
  • 『カリスマへの階段』 関口篤訳 青土社 1996
  • 『世界犯罪史』 関口篤訳 青土社 1997
  • 『「死体の庭」あるいは「恐怖の館」殺人事件』 鈴木晶訳 ぶんか社 1997
  • 『わが青春 わが読書』 柴田元幸監訳 学習研究社 1997 / 改題『超読書体験』 学研M文庫(上下) 2000
  • From Atlantis to the Sphinx(1996) 『アトランティスの遺産』 川瀬勝訳 角川春樹事務所 1997
  • 『世界遺跡地図』 森本哲郎監訳 三省堂 1998
  • 『エイリアンの夜明け』 南山宏訳 角川春樹事務所 1999
  • 『アトランティス・ブループリント 神々の壮大なる設計図』 ランド・フレマス共著 松田和也訳 学習研究社 2002
  • 『コリン・ウィルソンのすべて 自伝』 中村保男訳 河出書房新社 2005
  • 『アトランティスの暗号 10万年前の失われた叡智を求めて』 松田和也訳 学習研究社 2006
  • 『超越意識の探求 自己実現のための意識獲得法』 松田和也訳 学習研究社 2007
  • 『人狩り 連続殺人犯を追いつめろ!』 植松靖夫訳 悠書館 2008

小説

  • Ritual in the Dark (1959) 『暗黒のまつり』 中村保男訳 新潮社 1960
  • Adrift in Soho (1961) 未訳、『ソーホー街漂流』
  • Man Without a Shadow (米国版 The Sex Diary of Gerard Sorme) (1963)『ジェラード・ソーム氏の性の日記』 磯村淳訳 二見書房 1965、『形而上学者の性日記』中村 保男訳 ペヨトル工房 1990
  • The Glass Cage(1966)『ガラスの檻』 中村保男訳 新潮社 1967
  • The Mind Parasites(1967)『精神寄生体』 小倉多加志訳 早川書房 1969 のち学研M文庫
  • The Philosopher's Stone(1969)『賢者の石』 中村保男訳 創元推理文庫、1971
  • The God of Labyrinth(1969)『迷宮の神』 大龍啓裕訳 サンリオSF文庫 1980
  • The Killer (米国版 Lingard)(1970)『殺人者』 永井淳訳 早川書房 1975
  • The Black Room(1974)『黒い部屋』 中村保男訳 新潮社 1974
  • The Space Vampires(1976)『宇宙ヴァンパイアー』 中村保男訳 新潮文庫、1977
  • The Schoolgirl Murder Case(1975)『スクールガール殺人事件』 高見浩訳 新潮社 1975 のち文庫
  • The Return of the Lloigor(1977)『ロイガーの復活』 団精二(荒俣宏)訳 ハヤカワ文庫 1977
  • Spider World: The Tower (1987)『スパイダー・ワールド 賢者の塔』 小森健太朗訳 講談社ノベルス 2001
  • Spider World: The Delta (1987)『スパイダー・ワールド 神秘のデルタ』 小森健太朗訳 講談社ノベルス 2001

映画

研究・評伝

  • Howard F. Dosser, Colin Wilson: The Man and His Mind(1990)
    • 『コリン・ウィルソン その人と思想の全体像』 ハワード・F・ドッサー(中村正明訳、日本教文社、1996年)

出典

  1. 英作家コリン・ウィルソンさん死去 「アウトサイダー」 朝日新聞 2013年12月11日
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外部リンク