コスタリカ方式

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コスタリカ方式(こすたりかほうしき)とは小選挙区比例代表並立制における選挙戦術の一つで、同じ政党から競合する候補者が存在する選挙区において1人を小選挙区に、もう1人を比例区に単独で立候補させ選挙毎にこれを交代させるという方法である。日本独自の呼称(後述)。

概説

小選挙区比例代表並立制が行われる選挙において同じ政党から競合する候補者が存在する選挙区が存在する場合、1人を小選挙区に、もう1人を比例区の名簿上位に配分して比例区単独で立候補させる。

候補者同士は選挙があるごとに小選挙区と比例区における協定を結ぶ。「小選挙区選挙で立候補できる権利」と「比例代表選挙(上位順位)で立候補できる権利」は、選挙が行われる度毎に入れ替わるのが通例である。それによって、2人の候補者は当該選挙区において後援会などの選挙基盤を維持する。

コスタリカ方式を利用した場合でも、小選挙区で立候補した立候補者が比例と重複立候補することも可能である。この場合は比例区のみで立候補した立候補者よりも名簿順位は下位順位(大抵は多くの重複候補との同一順位)でなければならない。

「コスタリカ」の名は、コスタリカ友好議員連盟の会長であり、小選挙区比例代表並立制導入当時の自民党幹事長であった森喜朗が国会議員が同一選挙区における連続立候補を禁じたコスタリカの選挙制度を参考にして命名したものである。ただしコスタリカの選挙制度の目的は選挙において特定地域の有権者との癒着を防止することであり、日本のシステムは名前だけ頂いた、似て非なるものである。

沿革

1994年に衆議院選挙が中選挙区制から小選挙区比例代表並立制に移行する際に、自由民主党の候補者が重複する選挙区が複数存在してきたことから考案された。また連立与党である公明党保守(新)党との協定により連立政党の候補の小選挙区立候補を優先させ、自民党候補を比例上位で立候補させる場合もあった。

なお、民主党補欠選挙や元新進党議員の民主党合流によって候補者が重複する選挙区が出た第42回で、重複選挙区において3人の候補者を比例上位で立候補させる事実上のコスタリカ方式を採用したことがあるが、それ以降はコスタリカ方式を採用していない。

自民党では、第45回からコスタリカ方式を全廃する方針を固めていた[1]が、第45回で解消できたのは8選挙区のうち3選挙区に留まった[2]。しかし、第46回ではコスタリカ方式が採用されたのは熊本県第2区のみとなった(さらに比例単独で出馬した林田彪は名簿順位35位と下位順位なので正確にはコスタリカ方式ではない)。

利点と欠点

コスタリカ方式の導入による、候補にとっての利点としては以下のものがある。

  • 一度当選したら次の選挙は大政党の比例上位に登録されるため次回選挙の当選がほぼ保証される。
  • 選挙区の選挙において双方の後援会を動員でき、得票の増加が見込まれる。

一方、公認権限は党執行部が握っているため反党行為や離党をした場合はその政党から公認されず、選挙区でコスタリカ方式を結んでいた政党候補との激戦が予想され当選が難しくなる恐れがある。さらに小選挙区立候補の際に比例復活できずに完全落選した場合、党執行部によって比例に回っていた候補を小選挙区での党公認候補として完全に定着させる方針が採られると、同選挙区で立候補をして当選して衆議院議員として復帰することが極めて困難になる。また自民党では衆院選比例名簿の73歳定年制が設けられ、73歳を超えた議員は比例名簿に登載されない問題も出ている。

コスタリカ方式適応候補は1回選挙区で当選すれば次回選挙の当選がほぼ保証されているが、通常の候補は毎回選挙の選挙区で勝負しなければならず、またコスタリカ方式のために比例上位候補が1人掲載されているために小選挙区落選での惜敗率による復活当選において当選議席が1つ減ってしまうという不公平もある。

用語

新規コスタリカ
まだコスタリカ方式を導入していない選挙区においてコスタリカ方式を導入すること。
変則コスタリカ
通常のコスタリカ方式では選挙区と比例区を選挙毎に交互に立候補するが、交互に立候補せずにそれぞれが小選挙区と比例区とで固定化する方式である。また選挙毎ではなく5年などの交代期間を設ける場合もある。比例区ではなく参議院選挙区との間で変則コスタリカを行った例もある。

自由民主党・公明党のコスタリカ方式の例

最上行にある数字は西暦を表す。

選挙区 候補者 1996 2000 2003 2005 2009 2012
北海道第6区 今津寛 単落 単落 小当 比当 単落 単当
金田英行 比当 小落 退
北海道第13区
(現7区)
鈴木宗男 単復 比当
北村直人 敵当 小当 単当 単落 退
青森県第4区 津島恭一 単落 比落 比当 敵落 敵復 敵落
木村太郎 敵当 小当 小当 単当 単当 単当
秋田県第3区 御法川英文 比当 比当 死去
村岡兼造 小当 小当 単落 退
宮城県第2区 中野正志 単当 単落 単復 比当 小落 敵落
秋葉賢也 小当 比当 単当
福島県第1区 佐藤剛男 単当 単当 単当 比当 退
亀岡偉民 敵落 敵落 小当 単落 単当
福島県第3区 穂積良行 比当 小落 退
荒井広幸 小当 比当 単落
福島県第5区 吉野正芳 小当 比当 小当
坂本剛二 敵当 比当 小当 比当 単落 単当
茨城県第3区 葉梨信行 比当 小当 退
中山利生 小当 比当 退
群馬県第1区 尾身幸次 小当 比当 小当 比当 小落 退
佐田玄一郎 比当 小当 比当 小当 比当 単当
埼玉県第12区 小島敏男 単落 小当 比当 単当 単落 退
増田敏男 敵当 比当 小当 退
東京都第12区 八代英太 単当 小当 比当 敵落
太田昭宏 比当 小当 単当 単落 単当
千葉県第6区 井奥貞雄 比当 小落
渡辺博道 小当 比当 単復 単当 単落 単当
千葉県第9区 水野賢一 単落 小当 単当 単当 単落
実川幸夫 敵当 比当
千葉県第11区 森英介 単当 単当 単当 単当 単当 単当
石橋一弥 比当 死去
千葉県第12区 中村正三郎 比当 小当 比当 退
浜田靖一 小当 比当 小当 単当 単当 単当
神奈川県第12区 桜井郁三 単当 単落 小復 小当 小落 死去
江崎洋一郎 敵落 敵当 比当 比当 比落
新潟県第6区 高鳥修 小当 比当 退
白川勝彦 比当 小落
石川県第3区 瓦力 単当 単当 単当 比当 退
北村茂男 小当 単復 単当
愛知県第7区 鈴木淳司 小落 比当 単当 単落 単当
青山丘 敵当 比当 小当
岐阜県第4区 藤井孝男 小当 比当 小当 敵落 敵復
金子一義 比当 小当 比当 単当 単当 単当
大阪府第3区 柳本卓治 単復 比当 比当 比当 比当
田端正広 敵当 小当 小当 小当 小落 退
大阪府第10区 林省之介 単落 比当 退
石垣一夫 敵当 小落 退
大阪府第13区 塩川正十郎 単落 小当 退
西野陽 敵当 比当 単当 単当 単当 退
兵庫県第2区 奥谷通 単落 比当 死去
赤羽一嘉 敵当 小当 単当 単当 単落 単当
兵庫県第6区 阪上善秀 単復 比当 小落 敵落
小池百合子 敵当 小当 比当
奈良県第1区 森岡正宏 単落 小当 比当 敵落 単落 退
高市早苗 敵当 比当 小落
岡山県第5区 村田吉隆 単当 小当 小当 小当 比当 退
加藤勝信 比落 比当 比当 小当 単当
広島県第3区 河井克行 単当 単落 比当 小当 比当 単当
増原義剛 敵落 敵当 小当 比当 小落 退
徳島県第1区 岡本芳郎 小落 比当 単復 単落
七条明 比落 比当 小復
福岡県第11区 武田良太 単落 単落 敵当 敵当 小当 単当
山本幸三 敵当 敵当 単落 単復 比当
熊本県第2区 林田彪 小落 比当 小当 比当 小落 比当
野田毅 敵当 小当 比当 小当 比当 小当
鹿児島県第3区 宮路和明 比当 小当 小当 単当 単落 単復
松下忠洋 小当 比当 比当 敵落 敵当 死去
沖縄県第1区 下地幹郎 単復 比当 敵落 敵当 敵当 敵落
白保台一 敵当 小当 単当 単落 退

凡例:

  • 単 - 与党単独の公認候補 
  • 小 - 小選挙区立候補
  • 比 - 比例代表単独登録候補(ほとんどが上位登録)
  • 転 - 他の選挙区に転出や参院候補に鞍替え
  • 辞 - 小選挙区立候補辞退 
  • 退 - 引退 
  • 敵 - 与党の対立候補
  • 当 - 当選
  • 復 - 復活当選
  • 落 - 落選

脚注

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関連項目