カプサイシン

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カプサイシン (capsaicin) はアルカロイドのうちカプサイシノイドと呼ばれる化合物のひとつ。部分構造にバニリン由来のバニリル基を持つために、バニロイド類にも属す。唐辛子辛味をもたらす主成分で、辛味の指標であるスコヴィル値における基準物質。化合物名はトウガラシ属の学名Capsicumに因む。

特性

脂溶性の無色の結晶で、アルコールには溶けやすいが冷水にはほとんど溶けない。摂取すると受容体活性化チャネルのひとつであるTRPV1を刺激し、実際に温度が上昇しないものの激しい灼熱感をひきおこす。この機構はメントールによる冷刺激と同様である[1]。また、痛覚神経を刺激し、局所刺激作用あるいは辛味を感じさせる。体内に吸収されたカプサイシンは、に運ばれて内臓感覚神経に働き、副腎のアドレナリンの分泌を活発にさせ、発汗及び強心作用を促す。

  • マウス実験においてLD50(半数致死量)は、腹腔内 LD50 9500μg/Kg、皮膚 LD50 512mg/Kg、静脈内 LD50 7800μg/Kg。

ワサビカラシの辛み成分アリルイソチオシアネートとは風味が異なる。韓国など唐辛子を多食する地域の出身者でも、ワサビの辛さを苦手とする人は多いテンプレート:要出典

尚、カプサイシンは、単体では問題ないが、他の物質と同時に摂取すると発生を促進する機能を備えていることが明らかにされた[2]

歴史

本化合物[3][4]は1816年、Christian Friedrich Bucholz(1770年 - 1818年)によって(純粋でない形ではあるが)初めて抽出された[5][6][7][8][9]。Bucholzはこれをトウガラシ属の学名 Capcisumから「capsicin」と呼んだ。カプサイシンをほぼ純粋な形で抽出した[10][11]John Clough Thresh(1850年 - 1932年)は、1876年に「capsaicin」と命名した[12]。しかし1898年、カプサイシンを純粋な形で初めて単離したのはKarl Mickoである[13][14]。カプサイシンの実験式(化学組成)は、1919年、E. K. Nelsonによって初めて決定された[15]。Nelsonはまたカプサイシンの化学構造を部分的に推定した。カプサイシンは1930年に、E. SpathとS. F. Darlingによって初めて合成された[16]。1961年、日本人化学者の小菅貞良と稲垣幸男が類似物質をトウガラシから単離し、カプサイシノイド類と命名した[17][18]

ドイツ人薬理学者テンプレート:仮リンク[19][20](1820年 - 1879年)は1873年に、ハンガリー人医師Endre Hőgyes[21]は1878年に、"capsicol"(ある程度精製したカプサイシン[22])が粘膜に接触すると焼けるような感覚を引き起こし、胃液の分泌を増加させる、と記している。

カプサイシノイド類

カプサイシンはトウガラシ中の主要なカプサイシノイドである。その他にはジヒドロカプサイシンがある。これらの2つの化合物は量の少ないノルジヒドロカプサイシンホモジヒドロカプサイシンホモカプサイシンよりも味および感覚が2倍程強い。純粋なカプサイシノイド類の希薄溶液は異なる種類の辛味を生む。しかしながら、これらの差異はより濃い溶液では見られない。

カプサイシンはトウガラシの房室間隔壁において、バニリルアミンに分岐鎖脂肪酸を付加することで合成されていると考えられている。具体的に、カプサイシンはバニリルアミンと8-メチル-6-ノネノイル-CoAから作られる[23][24]

生合成は、pun1遺伝子座に存在し、推定アシルトランスフェラーゼをコードしているAT3遺伝子に依存している[25]

6種の天然カプサイシノイド類に加えて、一つの合成カプサイシノイドがある。テンプレート:仮リンク (VNA, PAVA) が、カプサイシノイド類の相対的辛味を決定する基準物質として用いられる。

名称 略称 典型的な相対量 スコヴィル値 化学構造
カプサイシン C 69% 16,000,000 Chemical structure of capsaicin
ジヒドロカプサイシン DHC 22% 16,000,000 Chemical structure of dihydrocapsaicin
ノルジヒドロカプサイシン NDHC 7% 9,100,000 Chemical structure of nordihydrocapsaicin
ホモジヒドロカプサイシン HDHC 1% 8,600,000 Chemical structure of homodihydrocapsaicin
ホモカプサイシン HC 1% 8,600,000 Chemical structure of homocapsaicin
ノニバミド PAVA 9,200,000 Chemical structure of nonivamide

利用

医薬品

TRPV1アゴニスト(最も強力なアゴニストはレシニフェラトキシン:resiniferatoxin :RTX)であるカプサイシンで当該受容体を刺激すると痛覚神経は脱感作され、痛み刺激の伝達が抑制され痛みを感じにくくなることが知られている。この作用機序を利用して帯状疱疹後に発生する疼痛治療や糖尿病性神経障害による痛みの改善にカプサイシンクリームが臨床で使用されているが、一日数回の塗布が必要なこと[26]に加え、塗布直後の焼け付くような痛みの副作用が知られている[27]。この問題を解決できる可能性が高い鎮痛薬、若しくは炎症性疼痛から神経因性疼痛まで様々な痛みを改善する鎮痛薬としてTRPV1アンタゴニストの創薬研究・臨床開発が1997年以降多くの製薬会社でおこなわれている。実際、カプサイシン受容体と強力に結合するレシニフェラトキシンを修飾したヨードレシニフェラトキシン(I-RTX)はカプサイシン受容体のアンタゴニストとして作用する。実験用試薬としては他に、カプサイゼピンやルテニウムレッドなどが有名。臨床応用を目指したアンタゴニストとしてはSB-366791や SB-705498, SB-750364, A-425619などが開発されている。

医学品以外

  • 体脂肪を燃やすなどのダイエット効果、健康増進効果があると俗に言われているが、国立健康・栄養研究所によれば、経口摂取によるカプサイシンの有効性に関して、ヒトでの信頼できるデータは見当たらない[28]
  • 催涙スプレーやトウガラシ忌避剤[29]の成分にされ、浴びると皮膚粘膜がひりひりとした痛みを感じたり、咳や涙が止まらなくなったりする。
  • 誤嚥性肺炎の防止に高齢者の嚥下反射の障害を改善させる方法の一つ[30]として、カプサイシン(唐辛子成分)入りトローチを用いることがある。
  • 金魚や熱帯魚が罹患する病気の1つである白点病にカプサイシンが効用があるとされ、ふんだんにカプサイシンを含んだ鷹の爪を用いた治療法は、専門的な薬品の投与以外での有効な治療法の1つであるとされる。しかし初期、中期程度までは効用が見られるものの、末期症状にまで効用を見せるほど強い効果があるわけではなく、また即効性もない為、治療というよりは予防に効果があるとされる。

脚注

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関連項目

外部リンク

  • 富永真琴, "生体はいかに温度をセンスするか─ TRP チャネル温度受容体─", 日生誌, Vol.65, No.4・5, 130(2003). [1]
  • カプサイシンががんの発生促進、建国大教授らが解明 聯合ニュース2010年9月6日
  • カプサイシンの初期の研究の歴史: テンプレート:Cite book
  • テンプレート:Cite thesis
  • テンプレート:Cite journal
  • テンプレート:Cite book
  • テンプレート:Cite book
  • テンプレート:Cite web
  • 1817年、フランス人化学者アンリ・ブラコノー(1780年- 1855年)もまた、トウガラシの活性成分を抽出した。以下の文献を参照。テンプレート:Cite journal
    トウガラシの活性化合物の単離を試みたその他の初期の研究者としては
    (1) Benjamin Maurach (テンプレート:Cite journal を参照、Maurachの論文のアブストラクトは以下で見ることができる: (i) Repertorium für die Pharmacie, vol. 6, page 117-119 (1819); (ii) Allgemeine Literatur-Zeitung, vol. 4, no. 18, page 146 (Feb. 1821); (iii) "Spanischer oder indischer Pfeffer," System der Materia medica ... , vol. 6, pages 381-386 (1821).)
    (2) デンマーク人地質学者テンプレート:仮リンクテンプレート:Cite journalを参照)。
    (3) ドイツ人薬剤師Ernst Witting(テンプレート:Cite journalを参照)がいる。
  • (1) テンプレート:Cite journal; (2) テンプレート:Cite journal この論文の要約: テンプレート:Cite journal In The Pharmaceutical Journal and Transactions, volume 7, see also pages 259ff and 473 ff and in vol. 8, see pages 187ff; (3) Year Book of Pharmacy… (1876), pages 250 and 543; (4) テンプレート:Cite journal テンプレート:Cite journal
  • テンプレート:Cite journal
  • テンプレート:Cite book
  • テンプレート:Cite journal
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  • テンプレート:Cite journal
  • テンプレート:Cite journal; (en) Chem. Abstr. 1964, 60, 9827g.
  • テンプレート:Cite journal
  • テンプレート:Cite journal
  • テンプレート:Cite journal
  • テンプレート:Cite journal; reprinted in: Orvosi Hetilap [Medical Journal] (1878), 10 pages. Published in German as: "Beitrage zur physiologischen Wirkung der Bestandtheile des Capiscum annuum (Spanischer Pfeffer)" [Contributions on the physiological effects of components of Capsicum annuum (Spanish pepper)], Archiv für Experimentelle Pathologie und Pharmakologie, vol. 9, pages 117-130 (1878). See: http://www.springerlink.com/content/n54508568351x051/ .
  • テンプレート:Cite book
  • テンプレート:Cite journal
  • テンプレート:Cite book
  • テンプレート:Cite journal
  • メルクマニュアル医学百科 痛みの治療 鎮痛補助薬
  • 日本薬理学雑誌Vol. 122 (2003) , No. 3 192-200
  • 「健康食品」の安全性・有効性情報 トウガラシ 国立健康・栄養研究所
  • 防鼠加工用マイクロカプセル製剤 R-731 日本化薬
  • 〜カプサイシンによる嚥下障害・誤嚥性肺炎予防に関する研究〜