カタクリ

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テンプレート:生物分類表 カタクリ(片栗、学名Erythronium japonicum テンプレート:AU)は、ユリ科カタクリ属に属する多年草古語では「堅香子(かたかご)」と呼ばれていた[1]

特徴

ファイル:Spring ephemeral.JPG
雪解け後に落葉樹林の林床で真っ先にカタクリやニリンソウなどが葉と茎を伸ばし花を咲かせる。その後枯れて地上部の姿が消える。

早春に10 cm程の花茎を伸ばし、薄紫から桃色の花を先端に一つ下向きに咲かせる。蕾をもった個体は芽が地上に出てから10日程で開花する[2]。花茎の下部に通常2枚の葉があり、幅2.5-6.5 cm程の長楕円形の葉には暗紫色の模様がある。地域によっては模様がないものもある。開花時期は4-6月で、花被片雄しべは6個[3]。雄蕊は長短3本ずつあり、葯は暗紫色。長い雄蕊の葯は短いものより外側にあり、先に成熟して裂開する[4]雌蕊の花柱はわずかに3裂している。地上に葉を展開すると同時に開花する。日中に花に日が当たると、花被片が開き反り返る。日差しがない日は終日花が閉じたままである[5]。開花後は3室からなる果実ができ、各室には数個-20程の胚珠ができる。平均で60%程の胚珠が種子となる[6]。胚珠は長さ2 mmほどの長楕円形である。染色体は大型で2n=24である[7]

早春に地上部に展開し、その後葉や茎は枯れてしまう。地上に姿を現す期間は4-5週間程度で、群落での開花期間は2週間程と短い[1]。このため、ニリンソウなど同様の植物とともに「スプリング・エフェメラル」(春の妖精)と呼ばれている[5][8]。種子にはアリが好む薄黄色のエライオソームという物質が付いており、アリに拾われることによって生育地を広げている(同様の例はスミレなどにも見られる)。

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暗紫色の模様の葉と出始めの蕾 開花直前の蕾 雌蕊の周りに6本の雄蕊 3室からなる果実

地下での挙動

5月中旬から9月末までは、地下で休眠状態となる。最大30 cm程の深さにある長さ5-6 cmの筒状楕円形の鱗茎は、10月下旬ごろに発根し始める[1]。雪解けを待って、地上に糸のような細い葉を伸ばす。

カタクリの生活史

発芽1年目の個体は細い糸状の葉を、2年目から7-8年程度までは卵状楕円形の1枚の葉だけで過ごし、鱗茎が大きくなり、2枚目の葉が出てから花をつける。毎年少しずつ鱗茎に養分が蓄積され、発芽から開花までには7-8年を要する[9][10]。開花初期は開花と結実がある有性生殖と結実がない無性生殖を繰り返し、個体が大きく成長した後は複数年に渡り開花が継続する。カタクリの平均寿命は40-50年ほどと推定されている[1]。なお、鱗茎は毎年更新し、なおかつ旧鱗茎の下に鱗茎が作られるため鱗茎は深くなる。原則として鱗茎は分球することはない。通常栄養繁殖を行わない[11]

カタクリの葉にサビ菌Uromyces erythronii テンプレート:AU)が寄生し、「さび病」を起こし枯れてしまうことがある[12]。落葉広葉樹林は約3,000万年前に形成され、カタクリの祖先はこの頃に落葉広葉樹林に出現しカタクリに進化したと考えられている[2]

受粉の仕組み

カタクリは両性花自家不和合性であり、自家受粉による種子の形成はほとんど行われない[13]。花被片、雄蕊、雌蕊は紫外線をよく吸収し、ハチ目などの昆虫の視覚器官が感受しやすく、花へ誘発するシグナルとなっている[13]ハナバチの仲間のクマバチコマルハナバチマルハナバチギフチョウヒメギフチョウスジグロシロチョウなどが吸蜜に訪れ送粉者(ポロネーター)として受粉を行っている[13]。クマバチとマルハナバチが最もカタクリの受粉に貢献している[14]

ファイル:Polyrhachis lamellidens DSC 0502.jpg
トゲアリはカタクリの種子を巣内に運び込んだ後に、巣外に搬出し周辺に散布する。

アリによる種子の散布

種子に付着しているエライオソームには脂肪酸や高級炭水化物などが大量に含まれる。アリがこの成分に誘発され、種子はアリの巣がある遠くまで運ばれる[7]富山県婦負郡八尾町(現富山市)では、アシナガアリアズマオオズアカアリクロヤマアリトゲアリトビイロケアリムネアカオオアリなどにより運ばれる様子が確認されている[7][15]。トゲアリはカタクリの種子を巣内に運び込んだ後に、巣外に搬出し周辺に散布する[7]

利用

かつてはこの鱗茎から抽出したデンプン片栗粉として調理に用いていた。精製量がごくわずかであるため、近年は片栗粉にはジャガイモサツマイモから抽出したデンプン粉が用いられている[16]。若葉を茹でて、山菜として食されることがある[17]。鑑賞用の山野草として、カタクリの球根が販売されている。日本各地の群生地では、春の開花時期に合わせて「カタクリ祭り」などが開催されている[18]

350円普通切手の意匠になった。

  • 1994年(平成6年)1月24日発売
  • 2012年(平成24年)7月2日発売 図案変更
  • 2014年(平成26年)3月31日 販売終了[19]

分布

北東アジア朝鮮半島千島列島サハリンロシア沿海州)と日本に分布する[1]。日本では北海道本州四国九州の平地から山地の林内にかけて広く分布する[3]。中部地方以北に多く分布し、四国と九州では少ない。岡山県では北部の市町村を中心に分布が確認されている[20]。九州では熊本県のみに分布し、日本の南限となっている[21]。比較的日光の差すブナミズナライタヤカエデなどの落葉広葉樹林の林床に群生する。キクザキイチゲとニリンソウなど同時期に同じ場所で開花することがある。スギ林の林床にも生育していることがあるが、花をつける個体は比較的日のよく当たる林縁に限られている[22]鈴鹿山脈北部など石灰岩質の地域に群生地となる例がある[23]。北海道の北見市端野地域の隔離分布した群落が日本の分布域の東端と推定されている[24][25]。昔は日本では落葉広葉樹林のある各地で広く見られたが、近年では乱獲や盗掘、土地開発などによる生育地の減少によって減少している。北アルプスの仙人山[26]の山腹(標高約2,000 m亜高山帯)において、最高所での生育が確認されている[1]。カタクリは数千-数万の大群落を作ることがあり、集団の全個体が入れ替わるには13-40年程かかると推定されている[27]基準標本は、日本のもの[3]

日本の主な群生地

田中澄江が『花の百名山』で奥多摩三山御前山を代表する花の一つとして紹介し[28]、『新・花の百名山』で三毳山を代表する花の一つとして紹介した[29][30]。最近では人工的に増殖した上で野山に植えられて、観光名所になっている所が多数ある。

天然記念物

  • 佐野市の「カタクリの花」 - 昭和50年代後半に栃木県の三毳山の北斜面に約1.5 haの規模でかたくりの花が群生していることが確認され、地元住民により育成保護された。1987年(昭和62年)に、市の天然記念物に指定された[36]
  • 太田市の「丸山薬師のカタクリ群生地」 - 群馬県太田市丸山町の約0.3 haの群生地が、2005年(平成17年)3月28日に市の天然記念物に指定された[37]
  • みどり市の「カタクリ群生地」 - 群馬県みどり市笠懸町阿左美の約2.4 haの群生地が、1994年(平成6年)7月26日に市の天然記念物に指定された[38]
  • 飯能市の「カタクリ・イカリソウの群落」 - 埼玉県飯能市岩渕の群落が、1973年(昭和48年)7月1日に市の天然記念物に指定された[39]
  • 柏市の「カタクリ群生地」 - 千葉県柏市逆井の群生地が、市の天然記念物に指定されている[40]
  • 富里市の「センダイタイゲキ及びカタクリ自生地」 - 千葉県富里市の自生地が、市の天然記念物に指定されている[41]
  • 相模原市の「カタクリの自生地」 - 神奈川県相模原市緑区牧野の自生地が、1988年(昭和53年)6月23日に当時の津久井郡藤野町の天然記念物に指定された[42]
  • 茅野市の「だいもんじ・亀石周辺のカタクリの群生地」 - 長野県茅野市宮川西茅野の群生地が、1982年(昭和57年)4月30日に市の天然記念物に指定された[43]
  • 島田市の「牧之原公園斜面のカタクリ」 - 1985年(昭和60年)5月28日に当時の静岡県榛原郡金谷町の天然記念物に指定された[44]
  • 高山市の「カタクリ群生地」 - 岐阜県高山市清見町大原の0.4 haの群生が市の天然記念物に指定されている[45]
  • 三次市の「カタクリ」 - 広島県三次市のダムサイトの群落が、市の天然記念物に指定されている[46]

カタクリ属

テンプレート:Sister ユリ科に属するカタクリ属Erythronium テンプレート:AU[47]には、ユーラシア大陸の大陸温帯域に4種、北米大陸に20種がある[48]。日本に分布するのはこのカタクリ(Erythronium japonicum)のみである。属の学名のErythroniumは、ヨーロッパで赤い花を咲かせる種のギリシャ語の「赤い」(erythros)に由来する[49]

種の保全状況評価

日本の多くの都道府県で、以下のレッドリストの指定を受けている[50]。四国と九州での分布は極一部に限られ絶滅が危惧されている[51]上信越高原国立公園中部山岳国立公園白山国立公園などで自然公園指定植物となっている[52]

文学

750年(天平勝宝2年)3月2日、大伴家持越中国司として富山県を訪問した際に、「もののふの 八十乙女らが 汲みまがふ 寺井の上の 堅香子の花」(万葉集・巻18)と詠い、カタクリが「堅香子(かたかご)」として詠まれている。島根県鹿足郡吉賀町樋口の「かたくりの里」には、この詩を刻んだ「六日市万葉歌碑」の石碑がある[62]松浦武四郎安政年間に蝦夷地を探検し、その後の本で当時のアイヌ人の食用植物として「延胡索黒百合、山慈姑、車百合菱実」の5種を絵つきで記している。そこで記されている「山慈姑」はカタクリのことである[17]

関連画像

テンプレート:Commons&cat

市町村指定の花

カタクリは日本の多数の市町村の花に指定されている。また合併前に指定されていた。

市の花

町の花

村の花

メディア

書籍

写真集

テレビ番組

  • 『花の自然誌 カタクリ 開花・8年目のめざめ』 NHK総合テレビ、1990年2月18日放送[9]
  • 『にっぽん花物語カタクリ』 NHK総合テレビ、1995年1月29日放送[63]
  • 『花の百名山 三毳山(みかもやま) カタクリ』 BS2、1995年4月5日放送[30]
  • 『ふるさと自然発見 カタクリの花咲く里〜秋田・西木村〜』 NHK総合テレビ、1995年5月27日放送[64]
  • 『ふるさと自然発見 山一面のカタクリ大群落 〜北海道・旭川市〜』 NHK総合テレビ、1997年5月31日放送[65]
  • 『北の大地の春』 さわやか自然百景・NHK総合 2005年5月22日放送[31]
  • モリゾー・キッコロ 森へいこうよ!カワイさ満開!春を呼ぶ妖精たち』 NHK教育テレビ、2010年5月2日放送[8]

脚注

テンプレート:脚注ヘルプ テンプレート:Reflist

参考文献

関連項目

外部リンク

テンプレート:Sister

テンプレート:Asbox
  1. 1.0 1.1 1.2 1.3 1.4 1.5 植物生活史図鑑 (2004)、1頁
  2. 2.0 2.1 ニュートン (2001)、28頁
  3. 3.0 3.1 3.2 高山植物 (1989)、566頁
  4. ニュートン (2001)、8頁
  5. 5.0 5.1 ニュートン (2001)、11頁
  6. ニュートン (2001)、19頁
  7. 7.0 7.1 7.2 7.3 植物生活史図鑑 (2004)、7頁
  8. 8.0 8.1 テンプレート:Cite web
  9. 9.0 9.1 テンプレート:Cite web
  10. 植物生活史図鑑 (2004)、2頁
  11. 植物生活史図鑑 (2004)、3頁
  12. ニュートン (2001)、15頁
  13. 13.0 13.1 13.2 植物生活史図鑑 (2004)、5頁
  14. ニュートン (2001)、13頁
  15. ニュートン (2001)、16頁
  16. テンプレート:Cite web
  17. 17.0 17.1 テンプレート:Cite web
  18. テンプレート:Cite web
  19. テンプレート:Cite web
  20. テンプレート:Cite web
  21. 21.0 21.1 テンプレート:Cite web
  22. ニュートン (2001)、32頁
  23. テンプレート:Cite web
  24. テンプレート:Cite web
  25. 植物生活史図鑑 (2004)、6頁
  26. テンプレート:Cite web
  27. ニュートン (2001)、30頁
  28. 花の百名山 (1997)、18-21頁
  29. 新・花の百名山 (1997)、132-134頁
  30. 30.0 30.1 30.2 テンプレート:Cite web
  31. 31.0 31.1 テンプレート:Cite web
  32. テンプレート:Cite web
  33. テンプレート:Cite web
  34. 花の百名山地図帳 (2007)、86-87頁
  35. 花の百名山地図帳 (2007)、202-203頁
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  48. ニュートン (2001)、36-37頁
  49. ニュートン (2001)、6頁
  50. テンプレート:Cite web - 「都道府県指定状況を一覧表で表示」をクリックすると、出典元の各都道府県のレッドデータブックのカテゴリー名が一覧表示される。
  51. 植物生活史図鑑 (2004)、6頁
  52. テンプレート:Cite web
  53. テンプレート:Cite web
  54. テンプレート:Cite web
  55. テンプレート:Cite web
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  65. テンプレート:Cite web