リチウム塩

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テンプレート:出典の明記 リチウム塩(リチウムえん)は化学的なリチウムで気分安定薬であり、特に双極性障害うつ病に用いられるが、統合失調症の治療にも用いられる。略号はLi。通常は炭酸リチウム (Li2CO3) が用いられるが、クエン酸塩であるクエン酸リチウムが用いられることもある。また、オロチン酸塩であるオロチン酸リチウムも使用される。塩は中枢神経系に広く運ばれ、神経伝達物質受容体の多数に作用し、ノルアドレナリンの放出を抑制して、セロトニンの合成を促進する。大正富山医薬品株式会社からリーマス®田辺三菱製薬株式会社からヨシトミ®などの商品名で発売されている。リチウムは過量投薬のリスクが高く、治療薬物モニタリングが必要である[1]

リチウム塩の使用は1949年オーストラリア精神科医ジョン・ケイドによって、偶然に動物に対する効果を発見したのちに開発された。1954年デンマークの精神科医がケイドの発表が正しいことを認め、以降ヒトに対する使用が開始された。

ファイル:Lithium carbonate2.JPG
炭酸リチウム(リーマス®錠200)

治療

リチウムは躁うつ病に著効を示し、うつ病にも使用される。うつ病への使用は他の抗うつ薬の効果を増強する目的でも使用される。また、過活動や多幸症の患者を鎮静させるために使用される。治療初期にはリチウムの効果が発現するまで最大一週間を要することから、しばしば精神安定剤と共に使用される。リチウムによる治療は一般的に子供には不向きだとされる。

リチウムの毒性と副作用

リチウムを使用する人は定期的に血液検査を行い、甲状腺及び腎臓が毒性により損傷を受けていないか監視するべきである。これは塩であるので、リチウムは脱水症を引き起こす。熱により加速される脱水症はリチウム濃度を上昇させる。

高用量のハロペリドールフルフェナジン、またはフルペンチキソールをリチウムと同時に使用すると中毒性の脳障害を起こすとの報告があり、おそらく危険である。

オロチン酸リチウムを除くリチウム塩は治療域と中毒域の比率が狭く、従ってリチウムの血漿濃度を測定できる施設が利用可能な場合にのみ処方されるべきである。患者を注意深く選択するべきである。処方は前回の服用後12時間後に採取した試料血漿内のリチウム濃度が0.6~1.2 mEq/Lとなるように調節する(最低濃度は維持治療や高齢者向けのものである)。一般的に血漿濃度が1.5 mEq/Lを超える、過量服用の場合には致命的となることがあり、振戦構語障害眼振腎障害痙攣を含む中毒症状が現れる。もし潜在的に危険なこれらの兆候が見られた際には、治療を中止し、血漿濃度を再測定し、リチウムの中毒を緩和する措置を行うべきである。

リチウムの毒性はナトリウムの枯渇により増強される。現在の遠位曲尿細管へのナトリウムの吸収を阻害する利尿剤(例:サイアザイド)の使用は危険であり、避けるべきである。軽症の場合にはリチウムの投与を中止し、ナトリウムと水分を十分に与えれば毒性を失う。2.5mEq/Lを超える血漿濃度は通常緊急治療を要する重大な中毒を呈する。ここまで毒物濃度が達すると中毒症状が最大になるまで1~2日間を要することがある。

長期連用では、治療に使用されるリチウムの濃度は腎臓に組織的及び機能的な変化をもたらすと考えられてきた。そのような変化の有意性は明らかではないが、明白な必要性が示されない限り長期連用は推奨されない。重要な経過は尿崩症の発現である。尿崩症とは尿の濃縮が不能になる症状である。したがってリチウムによる治療は、評価の結果有効と認められている場合にのみ3~5年継続すべきである。アメリカでは一般の錠剤 (Lithium Carbonate)、及び徐放錠 (Eskalith CR) が入手可能であるが、このような違いは生態学的利用能に多大な差異を生じさせ、形態の変更は治療開始時と同じ注意が要求される。リチウムの単純な塩のどちらかを選ぶことにはさほど理由がない。炭酸塩が広く流通しているが、クエン酸塩も入手可能である。日本国内では徐放錠は発売されておらず、一般錠(リーマス)やそのジェネリックが流通している。

リチウム塩の副作用は、振戦、線維束攣縮、多飲症、多尿症、眩暈、筋力低下、嘔吐、頭痛、発語障害、運動失調、昏迷、心不整脈、発作までさまざまである。甲状腺機能低下症(無症状甲状腺機能低下症)などの副作用もある[2]

多く見られる副作用として、多尿・多飲が60%、次いで手指振戦と体重増加が共に37%という報告がある。手指振戦は男性に多く、体重増加は女性に多いとされる[3]

リチウムの過量服用

過量服用とはすなわちオーバードースのことであるが、体内のリチウム濃度が高過ぎることを示す症状は、錯乱、下痢、傾眠、重大な振戦、胃部不快感、致死的な不整脈[4]のいずれかまたは全てである。

リチウムの特異的な解毒剤は現在知られていない。

脚注

  1. テンプレート:Cite book
  2. 寺尾岳『気分障害の治療ガイドライン:ラピッドサイクラー』精神科治療学
  3. Henry C. Lithium side-effects and predictors of hypothyroidism in patients with bipolar disorder: sex differences. J Psychiatry Neurosci. 27 104-107 2002
  4. 炭酸リチウムおよびバルプロ酸ナトリウム徐放剤を大量服用し,持続的血液濾過透析により救命した1例 日本救急医学会雑誌 Vol.24 (2013) No.7 p.425-430

関連項目

外部リンク

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