インド料理

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北インドのターリー
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南インドのミールス

インド料理(インドりょうり)は、フランス料理イタリア料理中国料理日本料理などと並ぶ世界的な料理スタイルのひとつ。特徴の一つは、様々な香辛料(スパイス)を多用する事であるが、インド亜大陸は広大であり、地域・民族・宗教・階層などによって多くのバリエーションがある。

地域による分類

北インド料理

北インドの料理はイランアフガニスタンなど中東の食文化の影響を強くうけており、ナーン (テンプレート:Lang-hi) 、チャパーティー (テンプレート:Lang-hi) 、ローティー (テンプレート:Lang-hi) といったパンを主食とし、牛乳ダヒーテンプレート:Lang-hi:ヨーグルト)、パニールテンプレート:Lang-hi:フレッシュチーズ)、ギーテンプレート:Lang-hi:澄ましバター)などの乳製品を用い、スパイスとしてクミンコリアンダーシナモンカルダモンおよびこれらを配合したガラムマサラなどを多用する。は香り高いバースマティー種が好まれる。ムルグ・タンドゥーリーなど、タンドゥールを用いた調理法も北インド料理の特徴の一つである。

インド国外のインド料理レストランは、パンジャーブ料理ムガル帝国の宮廷料理(ムグライ料理)を提供する北インド料理店がほとんどである。

南インド料理

南インドの料理は米飯が主食であり、乳製品よりもココナッツミルク (テンプレート:Lang-hi) を多用する。またスパイスも北インドのクミン (テンプレート:Lang-hi) の代わりにクロガラシテンプレート:Lang-hi)の種やカレーリーフ(オオバゲッキツの葉)を好んで用いる。油はギーよりもマスタードオイルや胡麻油が多く使われる。菜食主義者が多いため野菜や豆の料理が発達しているが、一方で魚を使った料理も多くある。北インドで長粒種(インディカ種)が使われるのに対し、南インドの米は丸く、外見はジャポニカ種に似ている。しかし粘り気は少なく、粘り気を抑えた炊飯法が好まれる。北インドほど油脂を使わないため、料理は比較的あっさりしている。正餐(ミールス)は、バナナの葉を皿がわりにし、飯、サンバールラッサムヨーグルトアチャールチャトゥニー等を盛りつけ、手で混ぜて食べる。

ベンガル料理

インドベンガル地方およびバングラデシュで食べられている料理。フェンネルシードニオイクロタネソウの種、フェヌグリーク、クロガラシの種、クミンを合わせたパンチ・ポロンという配合香辛料を風味づけによく用いるほか、白いケシの実(ポスト、posto)をしばしば煮込み料理やチャトゥニーなどに用いるのが特徴。淡水魚カーストを問わず非常に人気があり、ジョル (jhol)というスープにしたり、ダール(去皮して二つに割った小粒の類)と一緒に煮込んだりする。他の名物に、苦味のある野菜の煮物「シュクト」 (shukto) または「シュクタ」 (shukta) とチェーナー(छेना, chhena)を用いた菓子類(チャムチャム /テンプレート:Lang-bnラショゴッラ /テンプレート:Lang-bn、シャンデーシュ /テンプレート:Lang-bn 他)などがある。

ゴア料理

ゴアカトリック教徒の料理は、旧宗主国ポルトガル料理の影響を強く受けている。インドでは珍しく豚肉の消費が盛んで、リングィーサなども食べられる。ゴアの有名な料理には、肉をニンニクで煮込んだヴィンダルー(vindaloo)、鶏肉羊肉の煮込み料理シャクーティ(xacuti)、豚や羊のもつを煮込んだサラパテル(sarapatel)、型をしたパン、ポイー(poee)、ケーキプディングの中間のようなデザート、ベビンカ(bebinka)などがある。

菜食料理と非菜食料理

戒律を理由として、ヒンドゥー教徒の上位カーストの者やジャイナ教ベジタリアニズムのための料理が古くから発達している。その他にも、ヒンドゥー教仏教ジャイナ教シク教など菜食をする宗教が多い。イード・アル=アドハーなどの消費が宗教儀礼の中で重要な位置を占めるイスラム教では肉食が肯定される。また、屠畜業に携わるダリット(不可触賤民)の社会では、肉を食事に取り入れてきた長い伝統がある。このように、インドの菜食と非菜食の伝統を宗教やカーストとの関係が深く、街のレストランでは菜食主義者と非菜食主義者の席は明確に分けられており、両者が同席することはない。

インドの菜食料理では、脂やゼラチンなどを含む一切の動物の肉や動物を原料とする食材を使用せず、も使用しない。しかし動物を傷つけずに得られる乳製品はよく使用され、インドの菜食主義者のほとんどは乳菜食主義者(ラクトヴェジタリアン)である。さらに各種の豆類、穀類、ナッツなども使用する為、栄養学的に肉食は必要ともされていない。ヒンドゥー教シーク教の寺院で参拝者に無料でふるまわれる聖餐は菜食料理である。

ジャイナの中でも最も敬虔な信者は、植物であっても葉、茎、豆だけを食べ、ニンジン (テンプレート:Lang-hi) や大根 (テンプレート:Lang-hi) 、ニンニク (テンプレート:Lang-hi) 、タマネギ (テンプレート:Lang-hi) 、などの根の部分を食べない。これは「土中の虫などの生き物を殺さないため」ということが理由の一つである。さらに「その部分が“体”にあたる」という考え、つまり枝葉ではなく本体部分を殺すことにつながるとの考えから、できる限り植物さえも殺生することを避けることによる。同様に、ハチを殺す危険の大きい蜂蜜なども摂らない。タマネギやニンニクなど五葷の摂取を避ける習慣はバラモンにも見られる。一方、西ベンガル州アッサム州など東インドの菜食主義者は魚も食べるペスクタリアンであることが多い。

非菜食の料理にも多くの種類があり、中央アジアからムスリムの征服者によって伝えられたものが多い。戒律上、全てのヒンドゥーはを聖なるものとして食べず、全てのムスリムはを汚れているものとして食べないので、一般にそれら由来の物は使われず、鶏肉羊肉山羊肉魚介類などが非菜食料理の主な食材となる。最もよく食べられる肉は比較的値段の安い山羊肉で、インドではマトンと英訳される慣例があるがの肉ではない。鶏肉は比較的値段が高い。インド国民の所得が増加するに従い、食肉の消費量は増加している[1]


「カレー」とインド料理

日本には「インド人は毎食カレーを食べている」と解釈している人が多い。例えばインドには主婦が自宅で作った食事を、出勤中の夫の職場に配達するダッバーワーラーというシステムがあるが、これを「家庭で作ったカレーを配達する」などと紹介される事が多い。

しかしこれは正確とは言えない。インドにおける「カレー」(「カリー」)という言葉は、外来語である。インドの人たちにとって、香辛料を使った煮込み料理は数多くあり、それぞれをそれぞれの料理名で呼ぶものである。香辛料を多用するインドの料理を全て「カレー」と呼ぶのは、日本料理で言えば醤油を使ったおかずを全て「醤油料理」と呼ぶような乱暴な呼び方である。カレーの語源には諸説あるが、タミル語で「食事」を意味する「kaRi」という説が有力である。

そういう状況をよく知っている人間は、逆に「インドに『カレー』はない」と述べる場合もある。ただし旧支配国のイギリスが、一部のインド料理をカレーという名前でイギリス料理に取り入れたことにより、世界中に普及したのも事実である。インド人自身も、インド以外の国の人々向けにわかりやすく説明する上で、この「カレー」という言葉を使うようになっており、内外のインド料理店で「具材+カレー」とメニューに表記している例は多い。例えばラース・ビハーリー・ボースは、当時の日本のカレーを元来のインドのカレーとは違うとして、本格的な「インドカレー」を伝えた人物であるが、「カレーという呼称は間違っている」とはしなかった。

カレー粉もイギリス人による発明品である。南インドにはほかにカリー・ポディという配合香辛料があり、「カレー粉」と英訳されることがあるが、味も原料も異なる。

しかし、日本人が一般的に認識している「カレー」とは、本質的には小麦粉の事であり、主成分となるそれをスパイスと油で加熱しゲル状にした食品の事である。しかしインド料理の中のいわゆる「インドカレー」と日本では呼ばれている類の料理は小麦粉を用いる事はなく、その意味ではやはり、あくまで、インド料理とカレーは全くの別物である。 (例えば、焼きそばのことをパスタとは呼ばないし、焼きそばがパスタのカテゴリに分類されるという認識も一般的には存在しない。なぜなら、たとえ具やスパイス類を麺と絡めながら油で炒めるという調理法に共通点があるとしても、そもそも本質的に主成分となる麺が違うためである。)

つまり、汁物を中心としたインド料理をカレーと呼称することは、完全な間違いではないが、スパイスの取り扱いや取り巻く食文化の差異が元で生じた誤認、勘違いからくる、的を射ない表現であると言える。日本人がカレーであると錯誤する料理は、それぞれひとつひとつ差異があり、本質が異なるものであって、カレーと一括りにすることは適切ではない。そもそもインド料理は「カレー」だけというわけでもない。 (例えば、麺類を見たことの無い外国人が初めて日本のうどんを目の当たりにし「麺料理とはうどんである」と誤解した上で、次にラーメンやパスタ、冷やし中華を見た時に「これはラーメンうどん、パスタうどん、こっちは冷やし中華うどんだね」と認識するようなものと言えよう。また、日本人を見て中国人であると呼ぶようなものでもある。)

この日本人の錯誤に対応するように、日本のインド料理店では(現地流であると明確に宣言している店を除いて)小麦粉を入れることが少なくないとも言われており、事実であるならばそれはもはやインド料理ではなく、まさに「カレー」の一種であり、「インド料理風の日本食」であるとも言えよう。

「浄」と「不浄」

一般的なインド人の感覚として、右手は「浄」、左手は「不浄」のものとされる。そこで食事中に直接料理に触れるのはきれいに洗った右手のみであり、調理された食材の触感を楽しむため、また本当に清潔かどうかが不明であるため、スプーン・フォーク・ナイフなどの使用は基本的に嫌う。左手はトイレで用を足し処理するためにも使われるため、せいぜい皿や水のグラスの外側に触れる程度に限られる。伝統的な作法ではスプーンなどを使わず、右手で直接パン類をちぎって汁物に浸すか、御飯を汁と混ぜて口に運ぶことになる。その際、親指・人差し指、中指までの指先の第二関節までを使うのがより上品とされる。ただし西洋の習慣に慣れた都会の人はスプーンやナイフを使うのにも抵抗がない傾向にある。また、ゆで卵の殻をむくときなど、どうしても両手を使わざるを得ない場合は両手を使うようであるテンプレート:要検証

浄・不浄の感覚は他にも徹底されており、揚げたり炒めたりする料理が多いのもインド料理の特徴である。これは、油で調理することで食品が浄化されるという観念に基づく。また食器に磁器・陶器よりも金属製のものが好んで使われるのも、土からできた前者よりも後者のほうが、より清浄であるとの考えからである。他者が手をつけた食べ物は穢れると考えられる。

さらにヒンドゥー教では、伝統的に「浄」と「不浄」の概念がカーストの概念に結びついている。下位カーストに属する人が触れた水や水分の多い食物は穢れると考えられ、かつては高位のカーストと下位のカーストに属する人同士が同じ席で食事をとることはおろか、水を受け渡すことすら忌避された。職業料理人には伝統的にバラモン出身者が多く、行楽や旅行に手作りの弁当を持参する習慣が根強く、家族が家で作った弁当を職場に配達するダッバーワーラーという業種が成立するのもこうした理由からである。近年でこそダリットの女性たちによるケータリング事業が成功した例もあるが、カースト差別が違法となった今日でも食にまつわる差別は報告されている[2]

食材と料理

インド料理の食材

パン

米料理

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ハイデラバーディー・ビリヤーニー(左)

野菜料理

肉料理

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タンドゥーリ・ムルグ、ムンバイ

飲物

スナック(北インド)

スナック(南インド)

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南インドの代表的な軽食・ドーサ。奥はサンバール

インドの中華料理

インドの中華料理コルカタに住む中国人によって紹介されたのが始まりといわれる。インドでの中華料理の人気は高く、特に大都市でよく普及している。クミンやコリアンダー、ターメリックなどでインド人好みの味付けがされており、豚肉や牛肉はほとんど使われず、逆にパニールなどインド料理の食材が用いられる例がある。インドの中華料理店では炒飯炒麺春巻きチャプスイ酢鶏モモなどが食べられる。ドーサに炒麺など中華料理をはさむ例も見られる。

菓子

世界の料理への影響

インド系移民と在外インド人の活動の結果として、インド料理は世界各地に定着している。特にイギリスや旧イギリス領のマレーシアシンガポールフィジーペルシア湾岸、ケニア南アフリカトリニダード・トバゴガイアナなどでは、インド料理が地元の食文化に溶け込んでいる。チキンティッカマサラはイギリス生まれのインド料理で、イギリスの国民食の一つと呼ばれている。ゴア料理はポルトガルとその植民地に伝播し、マカオ料理などに影響を与えた。また、カレー粉の普及により世界各地にカレー料理が生まれている。インドを発祥とするムルタバは、貿易を通して東南アジアに伝わり、現在では同地域やアラビア半島で食べられている。 日本では、チャンドラボースやイギリス海軍の影響になどにより、学校給食でカレーが取り入れられるなど、ラーメンと並びカレーライスが国民食となっている。全国各地では、その土地ならではの味付けや食材、コンセプトを用いた「ご当地カレー」も登場しており、日本独自の食文化となりつつある、

インド料理研究家

テンプレート:Sister

  • レヌ・アロラ
  • 香取薫
  • クマール・ニティ
  • ハリ・オム
  • ミラ・メータ
  • 渡辺玲
  • マドゥル・ジャーフリー
  • 辛島昇

脚注

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テンプレート:アジア料理
  1. テンプレート:Cite web
  2. テンプレート:Cite web