アセトアミノフェン

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アセトアミノフェン分子

化合物アセトアミノフェンテンプレート:Lang-en-short USAN)、別名(国際一般名):パラセタモールテンプレート:Lang-en-short INN, テンプレート:Lang-en-short)は、解熱鎮痛薬の一つである。

概要

軽い発熱や、寒け、頭痛などの症状を抑える解熱剤、鎮痛剤として用いられる薬物の主要な成分の一つとなっている。一般に解熱剤は禁忌とされるインフルエンザの際にも解熱剤としてしばしば用いられるなど標準的な服用法では非常に安全な薬物であるが、その広い薬効のため、服用量が過剰となることが少なくない。

なお、アセトアミノフェンはアスピリンイブプロフェンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)と異なり、抗炎症作用をほとんど持っていない。また、正常な服用量では、アセトアミノフェンは非ステロイド性抗炎症薬と異なり、を刺激せず、血液凝固、腎臓あるいは胎児動脈管収縮などの影響がない。また、オピオイド系鎮痛剤モルヒネなど)と異なり、興奮、眠け、などの副作用がなく、依存性、抵抗性および禁断症状に関する問題が完全にないという利点を持っている。さらに、アスピリンやイブプロフェン、ナプロキセン、ジクロフェナクなどNSAIDsによって引き起こされる「アスピリン喘息」の患者であってもアセトアミノフェンでは喘息を起こしにくいという主張する人もいる。

分子式は、C8H9NO2

使用対象

現在用いられている用途

アセトアミノフェンは、関節炎痛風腎結石尿路結石片頭痛疼痛歯痛、さらに、小規模から中規模な手術後や、外傷生理痛歯痛腰痛筋肉痛神経痛などの鎮痛目的で使用される。ロキソニンと並び、頓服用途の鎮痛剤として処方されることが多い。

また、ヘビの1種で、グアム島に侵入して生態系を破壊している外来種ミナミオオガシラの駆除にも効果があるとされる。

歴史

テンプレート:節スタブ アセトアミノフェンは1873年に初めて合成された。 医薬品として用いられたのは1893年である。

日本では、先発品としての名称は判然としていないが、「アスペイン」、「アテネメン」、「アトミフェン」、「アニルーメ」、「アンヒバ」、「カルジール」、「カロナール」、「トーワサール」、「ナバ」、「ネオセデナール」、「ピリナジン」、「ピレチノール」などの商品名で発売されるケースや"アセトアミノフェン200mg「TCK」[1]"のように、アセトアミノフェン(主成分名)+メーカ略号の名称で発売される場合とがある。また、アラクスが販売する「ノーシン」など、「指定第2類医薬品」として、市井のドラッグストアで販売されているものも存在する。

このほか、改良の上で、効能を高めるものとして塩野義製薬が「SG配合顆粒 1g」として医療用医薬品の発売を行っている(当然、医師の処方が必要)。なお、当薬剤は特許期間が経過していないため、後発医薬品は発売されていない。ちなみに、「SG配合顆粒 1g」は、その強さのため予期せぬ副作用を引き起こす可能性があり、空腹時の服用と6時間以内の連続服用がほかの鎮痛剤に比べて強く禁止されている。

作用機序

アスピリンと同様にシクロオキシゲナーゼ (COX) 活性を阻害することでプロスタグランジンの産生を抑制するが、その効果は弱い。解熱・鎮痛作用はCOX阻害以外の作用によると考えられてはいるが、詳細は不明である。

2002年に脳内で痛みの知覚に関与するシクロオキシゲナーゼ3 (COX3) が発見され、アセトアミノフェンがこのCOX3を特異的に阻害することで鎮痛効果を発現すると考えられた時期もあったが、アセトアミノフェンの鎮痛効果発現メカニズムとCOX3阻害効果を結びつけることは非常に困難であることが明らかになってきた。

2005年にZygmuntらにより、アセトアミノフェンの代謝物であるp-アミノフェノールが肝臓主体で産生された後に、大部分が脳内に、また、ごく一部は脊髄に移行しアラキドン酸と結合することで、N-アシルフェノールアミンを合成することを見いだした。[2]このN-アシルフェノールアミンこそが強力な鎮痛作用を示す源となるとの可能性を報告している。

合成法

アセトアミノフェンは以下の手順で合成される。 フェノール硝酸ナトリウムを作用させてニトロ化し、2-ニトロフェノールと4-ニトロフェノールの混合物を得る。この混合物から4-ニトロフェノールを分離する。分離した4-ニトロフェノールを水素化ホウ素ナトリウムで還元し、4-アミノフェノールを得る。この4-アミノフェノールに無水酢酸を作用させてアセチル化し、アセトアミノフェンを得る。[3]

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副作用

アセトアミノフェンは、COX阻害活性が弱く、NSAIDsに見られるような胃障害の副作用が発生する頻度は低いが、肝障害がしばしば問題となる。 人体内に存在するシトクロムP450はアセトアミノフェンを酸化し、アセトアミドキノンを生成する。アセトアミドキノンは強い求電子試薬であり、グルタチオン(GSH)のチオール基や細胞内タンパク質と反応する。アセトアミドキノンは、グルタチオン抱合を受けると、無毒のメルカプツール酸になって尿中に排泄される。しかし、肝細胞内のグルタチオンが払底してしまうとアセトアミドキノンが肝細胞内の蛋白質や核酸と結合するため肝細胞が障害される。そのため、アセトアミノフェンを多量に摂取すると肝臓毒性が現れる。例えば、常習の飲酒のためにシトクロムP450の活性が上昇している場合には、アセトアミノフェンの接取量が少なくても中毒になりやすくなる[4]。(ただし、治療レベルであれば、多くの場合は問題にならない。)

他方、犬や猫(特に猫)ではグルクロン酸抱合能が低いため、少量のアセトアミノフェンの摂取でも中毒を起こす。したがって、アセトアミノフェンを含む解熱鎮痛剤を犬猫に投与してはならない。

  • 肝障害 - アルコールとの同時摂取は肝障害を起こしやすく危険
  • 血小板、白血球減少
  • 悪心、嘔吐

事件

1999年に日本の埼玉県で、市販の風邪薬とアルコールを大量に摂取させることによる殺人事件が発生した。警察は容疑者を絞り込んでいたものの、被害者の体内から毒物などの物的証拠を確認できなかったため逮捕に至らなかったが、風邪薬に含まれるアセトアミノフェンとアルコールを同時に大量摂取することで死に至る危険性があるという調査結果を得て逮捕に踏み切った(詳細は本庄保険金殺人事件を参照)。

米国ではアセトアミノフェンの大量摂取による中毒死が発生しており、日本でも前述の殺人事件の発生をきっかけに、日本薬剤師会から販売体制の徹底が薬局などに通知された。

脚注

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関連項目

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  1. 製造元は略号が示す通り辰巳化学だが、販売元は日本ジェネリックが手掛ける。
  2. Conversion of acetaminophen to the bioactive N-acylphenolamine AM404 via fatty acid amide hydrolase-dependent arachidonic acid conjugation in the nervous system.
  3. テンプレート:Cite book
  4. http://www.hi-ho.ne.jp/tgoto/naiyo/259.htm