アグリツーリズム

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アグリツーリズムとは、都市居住者などが農場農村休暇余暇を過ごすこと。日本では一般にグリーンツーリズムと呼ばれる[1]グリーン」は緑の意味の他、エコロジーの意味もあるのでエコツーリズムと混同されやすいが異なる。「農村民泊」などとほぼ同義。地域行政ではアグリツーリズムによって都市農村が交流し、地域振興が図られる。

概要

グリーン・ツーリズムは、「緑豊かな農山漁村地域において、その自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動」、「農山漁村で楽しむゆとりある休暇」とも言いかえられる。日本の農山漁村余暇法において「農村滞在型余暇活動」を「主として都市の住民が余暇を利用して農村に滞在しつつ行う農作業の体験その他農業に対する理解を深めるための活動」と定めている[2]

グリーンツーリズムの基本は、農山漁村に住む人々と都市に住む人々とのふれあい、つまり都市と農山漁村との住民どうしの交流である。その媒体としては、体験、産物、生活、文化など農林水産業を中心とした生活の営みそのものといえる。

発祥

ヨーロッパが発祥地で、アグリツーリズモ(伊)、ルーラルツーリズム(英)ともいう。思潮としてはロマン主義の影響を受けた民俗学が挙げられる。民俗学では農村や地方で残っているとされた民俗資料が重視された。そこでしばしば近代化進行によって失われつつあった自然調和の生活が、後に再評価された。

日本におけるグリーンツーリズム

欧州では都市の人が農村に長期滞在してのんびりと過ごすというものだが、日本は都市と農村の距離が比較的近いこと、長期休暇が取りにくい労働環境のため日帰りや短期滞在が多い。団体行動を中心とした旅行形態が好まれることや、祝祭日は別として長期休暇が取りにくいことなど、日本人の価値観・生活様式に合致したグリーンツーリズムが模索されている。このため、あえて「日本型グリーンツーリズム」と表現することもある。

実際の内容として、
1.農林水産物を介した通じた活動(産直・直売所など)、
2.イベント(ふるさとまつり・農林まつりなど)
など従来のものから、
3.農業・農村体験(市民農園、田植え稲刈り乳搾りなど)
4.学校教育における農村や農業とのふれあい
5.自然の営みとのふれあい
まで、幅広く都市と農山漁村との交流一般を指すことが多くなっている。

政府による政策

1992年度(平成4年度)に農林水産省により「グリーン・ツーリズム」という言葉が提唱された。1996年度までに全国205箇所[3]をモデル地区として指定し、振興を図った。同省では、グリーン・ツーリズムを、農山漁村地域において自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動として位置づけている。「滞在型」とは「周遊型」に対する概念であり、必ずしも宿泊に限定されるものではない。

根拠法は、平成18年5月1日に施行された「農山漁村余暇法」(または「農村休暇法」)である[4]

導入の背景

近年、スローフードスローライフなど、効率万能、規格量産化に疑問を覚える人が増えている。また、生物の営みとのふれあいが希薄となり、自然と人間のかかわりが縁遠くなってしまった。そのため、グリーンツーリズムに関心が寄せられている。

農山漁村も、地域活性化のため導入を図ろうとしているが、単なる簡易宿泊施設や農産物加工施設など箱物の整備に終わってしまうケースもある。

定着に当たっての課題

テンプレート:出典の明記 グリーンツーリズムが日本において一般的になりにくいのではないかという指摘も少なくない。その要因を整理する。

供給サイドの問題

  • 時間のバリア
そもそも農家や漁家には、受け入れる時間的余裕があるのか。
  • 空間のバリア
家屋がよその人を泊められる構造になっていないのではないか。わざわざ改装までして取り組む意欲と資金があるだろうか。
  • 心理のバリア
農家・漁家の人たちは、歓迎していないのではないか。自分たちの農山漁村が広い意味での観光の対象になるとはそもそも考えていない上、繁忙期に来られても迷惑であるし、農地に立ち入られたり、農作物・家畜に無神経に触られるのを嫌がるのではないか。生活の場を見せるという発想や、それが美しいという価値観がない。
  • 資源力のバリア
農村景観は心癒されるほど美しいとは言えないのではないか。(コンクリート構造物や電線ばかりが目に付いて美しくない。)
  • 認識のバリア
生活上の利便性のレベルについて、都市住民の想定と農山漁村の実態とにおいてギャップがあるのではないか。
日本では旅行先では普段食べない豪華な食事をするものという観念が強い。このため、受け入れ側では最高のもてなしをしようと贅を尽くした食事を提供しようとするが、専業化されていないため無理があり、長続きしない。受け入れられる側も認識を変えていく必要がある。

需要サイドの問題

  • 需要の確実性
利用が想定されている都市居住者は、長期休暇が取れた場合に、農山漁村で滞在・生活する気分になれるのか。例えば、英国においては社会的に一定の成功をおさめた人はリタイアして田園生活を過ごすのが社会的ステイタスの一つであるといわれる。これに対して、日本では都会に出て「一旗挙げる」のが成功の証とされてきた歴史がある。

ブルー・ツーリズム

漁村に滞在する漁村滞在型余暇活動の場合は、"ブルーツーリズム"と呼ばれ、離島や漁村の振興が図られる[5]

脚注

  1. 農林水産省による表記は「グリーン・ツーリズム」と中点つきで表記しているが、それ以外では中点を略して表記することもある。
  2. 農山漁村余暇法第2条
  3. 1993年度25・1994年度25・1995年度80・1996年度75
  4. 正式名称:農山漁村滞在型余暇活動のための基盤整備の促進に関する法律(平成6年6月29日法律第46号、最終改正平成17年7月26日法律87号。
  5. [1]「ブルー・ツーリズム推進のための手引き書、パンフレットの作成・貸出・配布-平成10年度海の資源を活用した漁村地域余暇活動に関する調査の成果-」厚生労働省・水産庁共同計画

関連項目

外部リンク