クエン酸

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クエン酸(クエンさん、citric acid)は柑橘類などに含まれる有機化合物で、ヒドロキシ酸のひとつである。

漢字では「枸櫞酸」と記される。枸櫞とは中国産のレモンの一種(シトロン)を指す。レモンをはじめ柑橘類に多く含まれていることからこの名がついた。柑橘類の酸味の原因はクエン酸の味に因るものが多い。また、梅干しにも多量に含まれている。

性質

化学式C6H8O7、分子量は192.125。CAS登録番号は[77-92-9](無水物)、[5949-29-1](一水和物)。カルボキシル基を3個有する弱酸で、爽やかな酸味を持つことから食品添加物として多用される。英語名は2-hydroxypropane-1,2,3-tricarboxylic acid

水溶液は弱酸性pKa = 2.87)を呈する。常温で無色あるいは白色の固体であり、無水物と一水和物の結晶がある。両者とも揮発性は無く無臭である。一水和物は加熱すると100 テンプレート:℃融解し、130 テンプレート:℃に保つと融点153 テンプレート:℃の無水物となる。175 テンプレート:℃以上では分子内脱水によりアコニット酸となる。金属イオンとキレート錯体を作ることが知られている。

生体内物質

生体内ではクエン酸回路の構成成分であり、オキサロ酢酸アセチルCoAとの反応によって生成する。また、アコニターゼによってcis-アコニット酸を経て異性化されイソクエン酸となる。またクエン酸は解糖系のホスホフルクトキナーゼ活性をフィードバック阻害し、解糖系からクエン酸回路への流入を調節する因子の1つでもある。

製法

潮解性があるので保存には注意が必要。工業的にはデンプンあるいはコウジカビの一種 Aspergillus niger発酵させて作られている。

利用

各種サプリメントの成分として多用される。しかし、5km走での実験から、運動成績を有意に向上させることが報告されたが、その後否定されている[1][2]。このほか、高強度運動や600m走でも運動成績には影響がないことが示されている[3][4]。一般に、クエン酸や乳酸など体液成分のアニオン性電解質が増大すると利尿作用があらわれることが知られているテンプレート:要出典。運動後はブドウ糖を単体でとるよりも、そこにクエン酸を加えた方が、グリコーゲンを多く貯蔵できる。[5]

日本薬局方収載品であり、薬局などでも市販されている。クエン酸のカルシウムイオンとキレート結合するので、かつては検査用血液サンプルの抗血液凝固剤などとしても利用された。現在でも成分献血時にクエン酸ナトリウムとともに抗血液凝固剤として使用される。クエン酸ナトリウムクエン酸カリウム合剤(商品名ウラリット®配合錠)は尿をアルカリ化させ尿酸排泄を促進することから痛風に代表される高尿酸血症治療薬として処方され、尿路結石代謝性アシドーシスの治療にも使用される。

食品添加物でもあり、清涼飲料水を始め各種の加工食品に添加される。炭酸カルシウムを容易に溶かすことから電気ポット加湿器の洗浄にも用いられる。

クエン酸の水溶液に溶解することを「く溶性」という言葉で表し、肥料の表示などで使われる。その意味するところは肥料の効率性といえる。つまり水溶性があまり高くなければ雨水などによる亡失が少なくなり、く溶性が高ければ根酸による吸収が多くなるはずであるため。

クエン酸塩

アルカリ金属塩の正塩はいずれも水に可溶、アルコールに難溶で水溶液は弱アルカリ性を示す。重金属塩は水に不溶なものが多いが、クエン酸イオンが過剰にあると複数配位することで水溶性となるものもある。

クエン酸ナトリウム
クエン酸ナトリウムは二水和物が安定で、化学式 Na3(C6H5O7)·2H2O の塩。水溶液は弱アルカリ性を示す。抗血液凝固剤や写真材料として利用される。
クエン酸カリウム
一水和物が安定で、化学式 K3(C6H5O7)·H2O の塩。水溶液は弱アルカリ性を示す。利尿剤として利用された。
クエン酸銅(II)
化学式 Cu2(C6H4O7) の塩。トラコーマまたは濾胞性結膜炎軟膏に使用されたことがある。
クエン酸鉄(III)アンモニウム
水酸化鉄(III) をクエン酸に溶かしアンモニアを加えて調製する。調製法により錯塩の構成が異なり、赤褐色の塩と緑色の塩が得られる。鉄欠乏性貧血の鉄剤として利用されたり、青写真や写真材料として利用される。

出典

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関連項目

外部リンク

テンプレート:クエン酸回路
  1. Oöpik, V.; Saaremets, I.; Medijainen, L.; Karelson, K.; Janson, T.; Timpmann, S. (2003). "Effects of sodium citrate ingestion before exercise on endurance performance in well trained college runners." Br. J. Sports Med. 37: 485–489. PMID 14665584.
  2. Oopik, V.; Saaremets, I.; Timpmann, S.; Medijainen, L.; Karelson, K. (2004). "Effects of acute ingestion of sodium citrate on metabolism and 5-km running performance: a field study." Can. J. Appl. Physiol. 29: 691–703. PMID 15630143.
  3. Hausswirth, C.; Bigard, A. X.; Lepers, R.; Berthelot, M.; Guezennec, C. Y. (1995). "Sodium citrate ingestion and muscle performance in acute hypobaric hypoxia." Eur. J. Appl. Physiol. Occup. Physiol. 71(4): 362–368. PMID 8549581.
  4. van Someren, K.; Fulcher, K.; McCarthy, J.; Moore, J.; Horgan, G.; Langford, R. (1998). "An investigation into the effects of sodium citrate ingestion on high-intensity exercise performance." Int. J. Sport Nutr. 8(4): 356–363. PMID 9841956.
  5. 『競技力向上のスポーツ栄養学』 トレーニング科学研究会/編 朝倉書店 2001年 ISBN 978-4-254-69019-4