片仮名

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
2014年7月18日 (金) 18:15時点におけるたぬきそば (トーク)による版
(差分) ← 古い版 | 最新版 (差分) | 新しい版 → (差分)
移動先: 案内検索

テンプレート:Infobox WS 片仮名(かたかな)とは、日本語の表記に用いられる音節文字のこと。仮名の一種で、借字を起源として成立した。 テンプレート:See also

概要

日本語では主に次のような場面で用いられる。

  • 漢文訓読・注釈等にかかわる場合
  • 文章の表記に用いる場合
  • 音を示すことを目的とする場合
    • 外来語、漢字文化圏の国を除く外国の人名・地名などの固有名詞
      • なお、中国や韓国など漢字文化圏の国でも、地名(韓国では人名も)をカタカナで表記する場合もある。
    • 擬音語・擬態語
    • 漢字の音(音読み、固有名詞の特殊な読み、日本語以外の言語での発音、常用漢字外の文字の仮名表記)
    • 女性、とりわけ第二次世界大戦以前に生まれた人の人名で見受けられることがある。
  • 一般と異なる表記による効果を目的とする場合
    • 学術用語
    • 生物和名(イヌ、キジ、サクラなど)
    • 意図をもって表記するとき(例えば地名。日本のほとんどの地名は、片仮名以外によって表記するのが正式だが、これを片仮名により表記することがある。)
    • 適切な漢字表記がなく、ひらがなで書くと読みづらい語を表記するとき(ハレとケ、テキヤ、チンドン屋など)
    • その語が特殊な(多くは卑俗な)意味で用いられていることを示すとき(ヤる、イカす、テキトウなど)
    • 日本語で砕けた表現をする場合
    • 会社名や商品名などの表記
    • 漫画等において)外国人の片言での会話を表現するとき
  • 技術的な理由から使用可能な文字が限られている場合
  • 「片仮名」という単語を「カタカナ」と表記することがある。

日本語以外では、アイヌ語表記にも使われる。アイヌ語仮名も参照。また、日本統治時代台湾台湾語の表記に使われた事もある。台湾語仮名参照。

  • 片仮名の一覧
あ段 い段 う段 え段 お段
あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行
ら行
わ行

歴史

吉備真備(695 - 775年)が片仮名を作ったという説があるが、これは俗説に過ぎない[1]。漢字の一部を使いその文字の代わりとして用いることは7世紀中頃から見られる[2]が、片仮名の起源は9世紀初めの奈良の古宗派の学僧たちの間で漢文を和読するために、訓点として借字(万葉仮名)の一部の字画を省略し付記したものに始まると考えられている。この借字は当初、経典の行間の余白などにヲコト点とともに使われていた。それが小さく素早く記す必要から字形の省略・簡化が進んだ結果、現在見る片仮名の原型となり、ヲコト点に成り代わって盛んに訓読に利用されるようになった。片仮名はその発生の由来から、僧侶や博士家などによって漢字の音や和訓を注記するために使われることが多く、ごく初期から漢字仮名交り文に用いた例も見られる。後には歌集や物語をはじめ、一般社会の日常の筆記にも使用範囲が広がったが、平仮名で書かれたものが美的な価値をもって鑑賞されるに至ったのと比べると、記号的・符号的性格が強い。当初は字体に個人差・集団差が大きく、10世紀中頃までは異体字が多く見られ、時代を経るに従って字体の整理が進み、12世紀には現在のそれと近いものになった。

平安時代中期に成立した『うつほ物語』の「国譲」の巻において「書の手本」の中に片仮名があげられており[3]、これにより平安時代中期には、片仮名がひとつの文字体系であると認識されていたことがわかる[4]。なお江戸時代の学者伴信友は、平安時代後期に成立したと見られる『堤中納言物語』の「虫めづる姫君」に、虫愛づる姫君が男から送られた恋文に対して「仮名(平仮名)はまだ書き給はざりければ、かたかんな(片仮名)に」返事を書いたという記述があることから、当時の文字の習得が片仮名から始めて平仮名に進んでいったとしている。しかし小松英雄はこの説明について、「虫めづる姫君」に見られる記述は虚構である物語における特殊な例であり、実際には初めから仮名(平仮名)を美しく書けるように習得するのが、当時の女性にとっては一般的であったとして退けている[5]

明治初期のころの字体はJ・C・ヘボン著『和英語林集成』の付表などにもみられる[6]。平仮名に比べ学問的傾向が強いので、戦前の日本ではより正式な文字とみなされ、法令全書その他の公文書で用いられ、教育面でも平仮名に先行して教えられた。現代の片仮名では明治33年(1900年)の小学校令施行規則で一音一字の原則に従い、標準とされた字体だけが普及している。

字体の由来

ただし中田祝夫は、上の表で見られるような従来からの字源についての説明を批判している。それは、従来からの説ではまず現在の活字のような楷書体の漢字から片仮名の字源を想定し、各々の片仮名の字源を探ろうとするがそれは誤りであり、片仮名が生れたころの時代を含めた近代以前には、漢字は実際には行書体や草書体で記される場合がほとんどで、そんな中でいわば平仮名のように、楷書体ではない崩した字体をさらに省略するなどして出来たのが片仮名であったとしている。

異説

平成14年(2002年)、大谷大学所蔵の経典にある角筆の跡について、これが表音を企図して漢字を省略したものであり、片仮名的造字原理の先行例ではないかとする説が出された[7]。この角筆について小林芳規は、8世紀に朝鮮半島で表音のための漢字の省略が行われており、それが日本に渡来したのではないかとする説を主張した[8]犬飼隆はこの小林芳規の主張について、表音を企図した漢字の省略が朝鮮半島で先行して実施されていた可能性を認めながらも、なお検証を要するとした[9]。また平川南は経典の成立年代と訓読のための書き入れにはずれがあることが充分想定できるため、典籍の年代確定の難しさを指摘している[10]

さらに、「根」字の脇に見られる「マリ」の如き角筆の痕跡が「ブリ」の音を表すとした上で、現代韓国語の「根(ブリ)」と一致するとの小林の主張は、新羅時代に「根」を「ブリ」と発音した可能性はないとソウル大学名誉教授の安秉禧(アン・ビョンヒ)[11]韓国口訣学会会長の南豊鉉(ナム・プンヒョン)らによって指摘されている[12]

脚注

テンプレート:Reflist

参考文献

  • 小松茂美 『かな その成立と変遷』 岩波新書、1968年 ISBN 4004120977
  • 築島裕 『仮名』〈『日本語の世界』5〉 中央公論社、1981年
  • 中田祝夫 「片仮名の字形・字源―片仮名の発達史―」 『水茎』(第二十四号) 古筆学研究所、1998年

関連項目

テンプレート:Sister テンプレート:Sister

外部リンク

  • 古くは南北朝から室町時代にかけての人物明魏(花山院長親)の著『倭片仮字反切義解』の序文には、「…天平勝宝年中に到りて、右丞相吉備真備公、我が邦に通用する所の仮字(仮名)四十五字を取り、偏旁点画を省きて片仮字(片仮名)を作る」とあり、1940年代の一部の書物においても片仮名の起源は諸説あるとし、片仮名は漢字の一部から吉備真備が工夫して創作したのではないかとの記載が見られる。『国語学大系』第四巻(厚生閣、1938年)および『新しき図案文字の描き方 初心者の為に』(国民書院、1940年)「片仮名の起源」(10頁)[1]参照。
  • 正倉院文書 御野国大宝二年戸籍(702年)、石神遺跡出土木簡(665年)における「牟」字の「ム」表記など
  • 『三省堂大辞林』「平仮名」の項
  • 『三省堂大辞林』「片仮名」の項
  • 小松英雄 『徒然草抜書』〈『講談社学術文庫』947〉 講談社、1990年 ※第二章「うしのつの文字」
  • J・C・ヘボン 『和英語林集成』〈『講談社学術文庫』477〉 松村明解説 1989年 巻頭・付表
  • 平川南編 『古代日本 文字の来た道』 大修館書店、2005年、185頁。
  • 小林芳規 「大谷大学蔵新出角筆文献について―特に、『判比量論』に書きいれられた新羅の文字と記号―」 『書香』第十九号、大谷大学、2002年6月。平川南編 『古代日本 文字の来た道』 大修館書店、2005年、185頁。
  • 平川南編 『古代日本 文字の来た道』 大修館書店、2005年、186頁
  • 前掲書
  • 「根の字の15世紀の発音は“ブルフィ”。新羅時代にこれを“ブリ”と読んだ可能性はない。また、マを部の字の略字と見るのは難しい」と述べている(『判比量論』日本のマスコミも集中報道(朝鮮日報)2002/4/4)。
  • なお、「」などは訓仮名であり、大和言葉圏以外では生じ得ない。