タチウオ
タチウオ Trichiurus lepturus(太刀魚、立魚、英: Largehead hairtail)は、スズキ目サバ亜目タチウオ科に属する魚類。別名にタチノウオ、タチ、ハクナギ、ハクウオ、サワベル、シラガなどがある。種々の調理法で食用にする。また娯楽としての釣りの対象ともなる。回遊魚。
日本近海に分布するタチウオはかつて他の地域のものと別種あるいは別亜種とされ、Trichiurus japonicus、あるいはT. lepturus japonicusの学名が当てられていた。これを太平洋東岸に分布する T. nitens などとともに、世界の他の水域に生息する T. lepturus とすべて同種として扱う場合が増えている。
形態
最大で全長234cm、体重5kg[1]。頭はとがっており、一見獰猛そうな鋭く発達した歯が目立つ。体は全体に左右に平たく、幅は指4本などと表現される。背びれは背中全体に伸びて130軟条以上あり、尾びれ、腹びれは持たず、尾部は単純は先細りになっている。体表には鱗がなく、その代わりに全身が銀色に輝くグアニン質の層で覆われている。生時はやや青味がかった金属光沢を持つが、死後ほどなくすると灰色がかった銀色となる。表面のグアニン層は人が指で触れただけですぐ落ちるほど落ちやすいが、生時は常に新しい層が生成されることで体を保護している。このグアニン層から採った銀粉は、かつてはセルロイドに練りこまれて筆箱や下敷きといった文房具、また模造真珠やマニキュアに入れるラメの原料として使われていた。
生態
世界中の熱帯から温帯にかけて分布する。沿岸域の表層から水深 400m 程度の範囲の泥底近くで群れて生活しているが、時には河口などの汽水域まで入り込むこともある。
産卵期は6-10月。稚魚や幼魚のうちは、甲殻類の浮遊幼生や小さな魚などを食べている。成魚はカミソリのような歯で小魚を食べるが、時にはイカや甲殻類を食べることもある。ただし貝やエビなど硬い殻を持つものは一切口にしないことから、漁師たちは「タチウオは歯を大事にする」と言い習わしてきた。この鋭い歯は、人の皮膚も容易に切り裂くため、生きているタチウオを扱うときには手袋などをして身を守る事が推奨される。
成魚と幼魚とは逆の行動パターンを持ち、成魚は夜間は深所にいて日中は上方に移動し、特に朝夕は水面近くまで群れて採餌をするが、幼魚は日中は泥底の上 100m ほどの場所で群れていて、夜になると上方へ移動する。
和名の由来
その外観が太刀に似ていることより、太刀魚(タチウオ)と名づけられたとする説(「刀」の字を取って「テンプレート:補助漢字フォント」と表記することもある)。また通常深さ100mくらいの泥底に群生し、朝夕の薄暗い頃に表層に浮き上がり餌を狙って立ち泳ぎをし、頭上を通り過ぎる獲物に飛び掛って捕食する。このため立ち泳ぎすることより、立魚(タチウオ)と名付けられた説もある。
食材
肉は柔らかく、塩焼きや煮付け、唐揚げなどで美味。紀州・播州・天草では新鮮なものは刺身や寿司、酢の物などにも用いられる。また、和歌山県有田市周辺では、タチウオを骨ごと擂りつぶして揚げた「ほねく」(または「ほね天」)と呼ばれる揚げかまぼこが市販されている。
食材以外での利用
体表の銀箔のグアニンは、模造真珠の原料として使われていた(ここから、「ハクウオ」の名で呼ぶ地方もある)。