死体洗いのアルバイト
死体洗いのアルバイト(したいあらいのアルバイト)とは、死体を洗うアルバイトのことであり、現実に存在するそれと、日本の都市伝説において語り継がれている架空のものがある。
日本における都市伝説『死体洗いのアルバイト』は、「大学の医学部では解剖実習用の遺体をホルマリンのプールにつけていて、その遺体を洗ったり、浮いてくると棒で突いて沈めるというようなアルバイトがある」などとするものである[1][2]。
本記事では、まず主として日本の都市伝説について解説し、その後現実のものについても言及する。
都市伝説『死体洗いのアルバイト』
日本の大学の医学部では、その養成カリキュラムの中に遺体解剖実習が必ず組み込まれているが、この都市伝説では、献体を解剖前に洗浄・保存(固定)する作業が必要となるため、病院は高額な時給でアルバイトを雇いこの作業を行わせている、という内容で語りつがれている。良く知られているのは、洗浄前の献体がホルマリン漬けのプールに沈められているというものだが、その他にも洗浄する対象が献体ではなく、ベトナム戦争で戦死したアメリカ兵となっているもの、「洗浄」ではなく「死化粧(エンバーミング)」を行うというもの、などいくつかの派生形がある。
起源
大江健三郎の小説『死者の奢り』(1957年)が初出だ、とする説がある[3]。
ただし、『死者の奢り』の中で書かれているのは「死体洗い」ではなく「死体運び」であり、また作品中で死体を沈めているプールの中の液体も一般に流布しているホルマリンではなくアルコールである。
「『死者の奢り』の中のこの話を大江自身が創作したのか、聞いた話を小説の素材に活用したのか、どちらなのかは判然としない」とコメントした人テンプレート:誰がいる。「大江自身もそのあたりは言葉を濁している」と言うテンプレート:要出典。
このように初出かどうかに関しては真偽は不明でも、大江のこの小説が、都市伝説として広く流布させる一因になったと、主張する人テンプレート:誰がいる。
実態
以下のように、一連の都市伝説で言われるような事実はない、とする指摘がされている。
布施英利などの著書によると、遺体の保存については、専門の知識を有する者が大腿動脈等から保存液を注入し、一体一体別々に保存庫で保管する。また、ホルマリンに関してはホルマリン中毒の観点から使用量は厳しく制限されており、プールのように浸すということはできず(ホルマリンは揮発性が極めて高くしかも有毒なため、大量に吸い込むと死に至る、のだという)、「ホルマリンプールなどはありえないテンプレート:要出典」という。また、解剖実習中においては、ホルマリンではなくフェノールなどを振り掛けるのが一般的である、と言う[4]。
法医学者・監察医の西丸與一によると、多くの医科大学や大学病院には、現在でもこのアルバイトに関して年に数件の問合せがあるという[5]。そこから、電話を取った職員が問い合わせに対し「そんなに給料が良ければ俺がしたいよ!」などと怒鳴った、というお話(あるいはジョーク)も存在するという[5]。
現在の日本では「死体解剖保存法」や「医学及び歯学の教育のための献体に関する法律」 などにより、解剖用遺体の取り扱いには厳しい制限が設けられている。ただし、死体解剖保存法では解剖者の資格は規定しているが、その遺体の保管に関する資格に関しては言及していないので、解剖資格の無いものが死体を扱うことそのものは違法ではない。
また、この都市伝説の派生のひとつとされるテンプレート:要出典ことのある「戦死したアメリカ兵」に関しても、在日アメリカ軍のモルグ(死体置場)職員から明確に「そのような事実は存在しない」とのコメントが出されている、西丸與一はエッセイで書いた[6]。
実在のアルバイト
湯灌
葬儀の際に行われる湯灌(ゆかん)において、遺体を入浴(洗浄)させる場合がある。この作業には特に厳しい制限は課されておらず、アルバイトの者も遺体に触れている(日給1万円~2万円程度)。
ただし、業者や地域による差はあり「厳粛な行為なのでアルバイトに遺体を触らせるようなことはしない(させない)」という業者や地域も存在する。また、湯灌に先立って死亡直後の清拭や死化粧は看護師が行う[7]。遺体に触れるのは穢れを伴うという考え方から、湯潅、死に化粧は女性のみが行なう仕事とし、納棺その他を男性が担うという形態もある。
「死体洗い」が描写されたフィクション
- 「死者の奢り」
- 「都合のいい女」(テレビドラマ。タクシー運転手、林田の副業)
- 「黒鷺死体宅配便」
- 「ハンニバル・ライジング」
- 「帆のないヨット」(辰巳ヨシヒロの漫画)
- 「ドロヘドロ」
- 「にくいあんちきしょう」(弓月光の初期作品)
- 「四八(仮)」(東京都)
脚注
- ↑ 宇佐和通 『THE都市伝説』 新紀元社、2004年、138-140頁。
- ↑ 木原浩勝・岡島正晃・市ヶ谷ハジメ 『都市の穴』 双葉社〈双葉文庫〉、2003年、151-159頁。
- ↑ http://www3.kmu.ac.jp/legalmed/faq.html#q15
- ↑ 布施英利『禁じられた死体の世界』(青春出版社、1995年)・同『死体を探せ!』(法蔵館、1993年)・坂本俊公『死体洗いのアルバイト』(イースト・プレス、2003年)などを参照
- ↑ 5.0 5.1 西丸與一『法医学教室との別れ』(朝日文庫、1995年)収録の「困った噂」参照
- ↑ 西丸與一『法医学教室との別れ』(朝日文庫、1995年)。同書に収録の「困った噂」というエッセイで戦死したアメリカ兵の遺体の取り扱いの実態が書かれている。
- ↑ 検死を必要とする事案を除く