ザイデル収差

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ザイデル収差(ザイデルしゅうさ)[1][2][3][4][5]は、幾何光学においてレンズで像をつくるときに生じるボケやゆがみなどの収差のうち、レンズにおいて単色収差すなわち色収差ではない単一の波長でも生じる収差で、近似計算において3次の項の係数として説明できる収差を分類し説明したものである。名前は19世紀ドイツの研究者ルートヴィヒ・ザイデルにちなむ。5種類あることから「ザイデルの5収差」とも呼ばれる。

種類

ファイル:Spherical aberration 2.svg
球面収差があると下図のように光が1点に収束せず、不鮮明な像になる。
ファイル:Lens-coma.svg
コマ収差のモデル
ファイル:ComaAberrationSample.jpg
コマ収差の発生した像の例
ファイル:Mustache distortion.svg
歪曲の形状例。陣笠型

ザイデル収差には以下の5種類がある。

球面収差
中心軸(光軸)上の、無限遠点を光源とする光(平行光線)ないし有限距離の1点を光源とする光が、焦点の1点に集束せず、前後にバラつく収差。この収差があると画面全体が不鮮明になる。レンズが球面であるため中心から離れると理想的なレンズの状態から外れるために発生することからこの名がある。色収差と同様、異なる硝材による凹凸のレンズで補正する。近年では非球面レンズも多用されている。完全補正型では絞りを絞り込むとある程度解消できるが、過剰補正型や補正不足型のレンズでは絞っても画質が向上しにくい。ソフトフォーカスレンズでは意図的にこれを利用し印象的な像を得る。
コマ収差
光軸外の1点を光源とする光が、像面において1点に集束しない収差。コマとは彗星のことで、点光源が散在する夜景などを撮影すると、彗星の尾のように光が流れた像となることに由来する。絞り込むと緩和する。不自然なアウトフォーカス像の原因にもなる。
非点収差
光軸外の1点を光源とする光が、レンズに対して同心円方向と直径方向で焦点距離がずれる収差。片方に合わせると点像が縦長の細い楕円になり、反対に合わせると横長の細い楕円になる。絞り込むとある程度緩和するが、解消はしない。
像面湾曲
レンズの前側と後側で、レンズに平行な焦点面が平面から平面に対応しない、という収差。たとえば被写体側を平面とすると、像面側ではレンズに対して凹な曲面に結像する。書類の複製や航空写真など、平面を撮影する際に問題となる。中心部と周辺部で焦点がずれるため、中央にピントを合わせると周辺部にピンボケが起き、周辺部にピントを合わせると中央がピンボケという状態になり、全体にピントを合わせることができない。絞り込むことによって被写界深度を利用して小さくすることができる。フィルムなどの感光材料や感光センサーを湾曲させるという対処法もある。
歪曲(ディストーション)
方形の物体が方形の像を結ばないというもので、中心から離れるにつれ倍率が拡縮するために起きる。中心部が膨らむようなゆがみにより方形が樽型になるもの、逆に中心部が収縮するようなゆがみにより方形が糸巻き型になるもの、以上の2つを組み合わせた陣笠型(図を参照)がある。書類の撮影や、モダン様式のビルディングの撮影などの際に不自然さとして気になる。絞り込んでも基本的に改善されない。魚眼レンズは樽型の歪曲を積極的に利用したレンズである。光学的には、レンズに対する絞りの存在によって発生し、相対的な位置によって樽型や糸巻型に変化する(この場合、開放では発生せず、むしろ絞ることで発生する)。前群と後群が対称なレンズでは起こりにくいのに対し、片方を凹とし反対を強く凸にした、望遠型やレトロフォーカス型のレンズでは起きやすい。ズームレンズでは、広角側で樽型・望遠側で糸巻き型、といったように発生する。

通常はこれらのすべての収差が複合して発生する。これらはレンズ面に対する光線の入射角 <math>\alpha</math> に関して、スネルの法則を用いて光線の軌道を求める際に、sin α をテイラー展開した3次の項の係数としてそれぞれ表される。このため3次収差とも呼ばれる。

ザイデル収差は幾何光学的な分類方法だが、波動光学においても収差は波面収差として説明される。

参考文献

  1. 応用物理学会光学懇話会;「幾何光学(POD版)」森北出版(2003)
  2. 久保田 広;「応用光学(POD版)」岩波書店(2000)
  3. 工藤 恵栄、上原 富美;「基礎光学」現代光学社(1990)
  4. 左貝 潤一;「光学の基礎」コロナ社(1997)
  5. 大坪 順次;「光入門」コロナ社(2002)

関連項目

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