色収差
色収差(いろしゅうさ、テンプレート:Lang-en-short)とは、レンズで像をつくるときに、光の波長によって像にずれを生じることである。
原理
同じレンズを用いてもレンズの屈折率は光の波長によって異なるため、焦点距離も光の波長によって異なり(色分散)、像の大きさと位置に差が生じる。これをレンズの色収差という。たとえば一般的な光学ガラスであるBK7の屈折率は、656 nm(赤)と486 nm(水色)の光では、それぞれ1.5143と1.5224と異なる。色収差は軸上色収差と倍率色収差に分けて考えることができる。
軸上色収差とはレンズの焦点距離が波長によって違うために、色によって像面の位置が前後にずれることである。白色点光源を撮影したとき点像の周りに色づいたボケをまとっているように見える。
倍率色収差は色によって像の倍率が異なり、像の大きさが異なることである。白色点光源を撮影したとき、特に画面の周辺部において虹色に色づいて放射方向に伸びるように見える。
デジタルカメラでの撮影を行う場合、倍率色収差は絞りこみを行っても抑制できないが、軸上色収差は絞りこみによってある程度抑制することが可能である。
解決手段
色消しレンズ(アクロマチックレンズ achromatic lens)やアクロマート (achromat) レンズと呼ばれる、屈折率の異なる素材のレンズの組を使って色収差の影響を少なくできる。例えば、クラウングラスとフリントグラスの2つのレンズ同士を張り合わせて一つのレンズのようにすることでアクロマートレンズを作ることができる[1]。このようにして影響をある程度まで少なくすることができる。また、レンズの個数や素材の種類を増やしてさらに色収差の影響を抑えることが出来る。ただしレンズの個数を増やすことは像が暗くなることや、コストがかかるなどの問題点がある。アッベは、3つの波長で色収差が補正され、2つの波長で球面収差・コマ収差が補正されている等の条件を満たすものをアポクロマートと命名した[2]。現在では単に3つの波長で色収差が補正されていることでもアポクロマートという[3]。
単に色分散の少ない素材を使うだけでは実用的なレンズはできない。たとえば蛍石は色分散が非常に小さい素材だが、それだけを用いた単レンズでは写真レンズで許容できる色収差より1桁大きくなってしまう[4]。したがって、単色光用の光学系や虫眼鏡のような単純なものを除いて、他の素材と組み合わせて補正することが必要になる。
蛍石は異常部分分散性の素材だが、このことは3つの波長で色収差を補正する際に使われる。薄レンズ近似のもとで3つの波長で色収差を補正するには、分散が異なるが部分分散比が等しいような2つの素材を組み合わせることが必要になる[2]。しかし通常の光学ガラスは分散(アッベ数)と部分分散比の間にほぼ直線関係がある[5]ため、分散が異なるが部分分散比が等しいような組み合わを得ることが難しい。これを満たすには異常部分分散性の素材が必要になる。
なお、レンズを使わないで反射鏡のみで構成した反射光学系では色収差が発生しない。また、レンズと反射鏡を組み合わせた光学系では色収差が発生するものの、レンズのみで構成された光学系よりその程度を抑えることが可能である。これらの光学系はピンボケの特性が特殊でリング状のボケが発生することなどからカメラレンズへの応用などはあまり好まれず、主流ではない。
この問題が実用上無視でき、大口径かつ精密さが要求される天体望遠鏡では反射光学系も選択の範疇に積極的に入り、反射望遠鏡などに利用されている。