サード・ガール
テンプレート:Sidebar with collapsible lists 『サード・ガール』は、1984年に西村しのぶが「COMIC劇画村塾」(スタジオシップ)で連載を開始した漫画。
概要
『COMIC劇画村塾』1984年4月号に掲載されたデビュー作『D-アウト』の設定をそのまま引き継ぎ、同誌1984年6月号の第1話「右手に美也」より月刊連載化。神戸というスタイリッシュな舞台設定、ブランドファッション、事実婚など、当時の感覚にマッチした絵柄やストーリーが評判を呼び、カルト的な人気を博した。
2007年現在、スタジオシップからのコミック8巻(絶版)、小池書院からの文庫版6巻および「完全版」と銘打ったA5版8巻が刊行されている(詳細は後述)。
あらすじ
大人の恋愛関係にある工学部生の涼と美也に、中学生の夜梨子が加わり、神戸を舞台に「プラトニックな三角関係」を繰り広げる。やがて涼・美也は同棲を始め、夜梨子は高校、短大と進学しながら淡い恋愛経験を重ねていく。
美也と広瀬の間に見られる「若い女と中年歯科医」という恋愛関係など、後の西村作品で繰り返し用いられることになるモチーフが各所に見られる作品でもある。
登場人物
- 佐々木涼
- 主人公の1人。国立K大学電子工学科を卒業して建築会社に勤める。大学時代に美也を口説き落とし、卒業とともに事実婚状態になる。浮気性で、美也と恋人同士でありながら頻繁に他の女性に声をかけるが、女性には尽くすタイプ。本編では数少ない東京出身者。愛車は日産・シルビア(S110)。身長180cm。
- 岸田美也
- 主人公の1人。神戸出身で、国立K大学電子工学科を卒業して悪友まりをの経営するブティックに勤務。結婚・出産という既成の人生設計に反発しつつ、家事はまめにこなす。時代劇マニア。身長167cm+ヒール7cm。涼の手帳のメモから読み取れるところでは7月20日生まれ。
- 神崎川夜梨子
- 主人公の1人。神戸出身で、聖K女学院中等部・高等部・短大とエスカレータ進学。中学時代に大学生の涼にナンパされ、それ以来自称「愛人」として付き合うことになるが、プラトニックな関係を超えることがない。涼との関係を続けつつ、一方で須藤、大沢、そして水野と、同世代の彼氏とも付き合っている。幼稚園の先生を目指し勉強中。身長155cm。3月3日生まれ。単行本6巻までは生年は1970年と明記されていたが、以降、後述する理由によって生年の設定はなくなった。
- 大沢悠也
- 夜梨子の彼氏。神戸のR学院から京大に進学。進学後は夜梨子と疎遠になりつつもなんとか関係が続いていたが、そのうち「年上でロングヘアーの京女」にたらし込まれ、京都の下宿で半同棲状態となる。京女の存在は知っていた夜梨子も半同棲状態となっていることまでは知らかったのだが、連絡なしで「たのこ」とともに二人で下宿に訪れたさいにその情景を目撃したことで破局する。
- 千年屋
- 大沢を夜梨子から奪った「年上でロングヘアーの京女」。大沢の大学の先輩でもある。
- 久遠寺まりを
- 美也の悪友。神戸・北野でブティック「Marionnette」を経営。資産家の家系で、別荘を数件所有している。
- 広瀬和正
- 歯科医。かつて美也と不倫関係にあった。のちに美也と偶然再会し、デートをするが、美也から提案された「美也とホテルに行くか、美也にアウディをプレゼントするか」の阿弥陀くじに敗れ、アウディの代わりに大量の缶ビールを贈った。
- 田野喜美子
- 通称「たのこ」。夜梨子の同級生・親友。社交的な性格で顔が広く、夜梨子に大沢を紹介した。
- 松井浩一
- 大沢の同級生・親友で、たのこの彼氏。K大に進学する(直接の接点はないが、涼、美也の後輩となる)。浩二という名前の弟がいる。
- 水野和臣
- 通称「カズ坊」。K大生。松井・大沢の高校テニス部以来の後輩。松井の紹介で、大沢と破局まもない夜梨子と知り合う。その松井のたび重なる「妨害工作」をもろともせず、夜梨子の新しい彼氏となる。
- 優
- 夜梨子の同級生。ボーイフレンドをとっかえひっかえしていて、14歳時点ですでに「百人切りの優」の異名をもつ。常に名前でしか呼ばれず、姓は不明。
- 安西
- タレ目が特徴の夜梨子の同級生。涼と並んで数少ない東京出身者で、中学途中で聖K女学院に転入し、夜梨子たちと親友となる。優とは逆で姓でしか呼ばれず、名前は不明。
- 田名部香子
- 夜梨子の短大進学後の同級生。愛称はカコちゃん。短大へは外部入試で入学していて夜梨子の仲間うちでは一番理知的だが、物見高いところもある。実家は保育園のひなぎく園。女系家族。
- 美百合
- 夜梨子と同い年の友達。同じピアノ教室に通う。涼と夜梨子の関係や美也と広瀬の関係と同じように、歯科医・南條と恋人関係にある。中学時代は頻繁に、高校進学後も3年の暮れごろまでは登場していたが、その後は作品からはフェードアウト。
- 歯科医・南條
- 美百合の恋人。
- 渡辺
- 涼と美也の大学の同級生。大学卒業までは他の同級生と同様によく登場した。大学卒業後は社会人1年目を除いてほとんど登場しなくなるが、唯一、彼のみ、美也と広瀬のデート現場の目撃情報を涼に伝える重要な役割で再登場した。
- 大滝
- 涼の大学の先輩で、涼の勤める建築事務所の同僚。わりとわがままな性格。独身。
- 桜沢
- 涼の同僚。当初、涼には好意を持っていたようで、美也の存在を知らなかった頃の大滝のとりなしで何度か涼とデートをしている。クサい芝居をする。好意を持った相手であれば不倫することも辞さないが、自分に不利な不倫であればイヤという少しわがままな性格。美也の存在がばれたあとは冷たくなる。
- 千尋
- まりをの彼氏。初登場時は学生だったが、のちに高校の数学教師となる。
- 咲子
- 夜梨子の姉。化粧品メーカーに勤務。夜梨子が短大1年のときに高校時代から10年越しの恋愛を実らせてゴールインしていることから、涼や美也とはほぼ同年代と考えられる。
- 三枝
- 咲子の夫。義妹にあたる夜梨子からは「三枝くん」と呼ばれている。
掲載誌・単行本化
本作品は、多くの漫画雑誌を転々としたことでも知られる。
当初の掲載誌であった劇画村塾は、第48話「クロース・イナフ」が掲載された1988年5月号をもって休刊。その後、第49話「キンダー・ガーデン」のみ「コミックHAL Vol.1」(1989年6月, スタジオシップ)に掲載され、続く第50話「不思議の街のピアス」(1991年10月)から第60話「STRAWBERRY SUPREME」(1994年4月)までは、季刊誌「コミック・コサージュ」(スタジオシップ)に掲載されたが、同誌も休刊。その後、新作は発表されていない。
こうした度重なる連載中断により、単行本の掲載内容も時期によって差がある。スタジオシップから刊行された全8巻では『D-アウト』(「Prologue: D-アウト」と改題)および第1話から第58話まで収録されており、第59・60話は未収録となっている。また、第53話「TRAIN DANCE」と共にコサージュ1992年7月号に掲載された、サード・ガール番外編にあたるショートストーリー「まりをちゃんのこと」もコミックス未収録となっている。
1996年に小池書院から刊行された文庫版6巻では、第57話「ラブ・ストーリー」までの収録となっている。
2006年10月から2007年5月にかけて、小池書院から「サードガール 完全版」として全8巻が刊行された。この版では連載時のカラー表紙などに加え、上記各版で未収録であった第59話と第60話(第8巻)および番外編(第7巻)も収録され、既発表済みのストーリーについてはすべて単行本化されたことになる。また、完全版では表紙や背表紙からあとがき文章に至るまで、すべて中黒のない「サードガール」で表記が統一されている(コミック版あとがきの再掲載に関しては、中黒ありの「サード・ガール」表記が残っている)。
なお、文庫版あとがきでは書き下ろしコミックス第9巻の予定も述べられたものの、2007年段階で未刊行である。また、タイトルの意味は長らく秘密となっていて、西村自身がインタビューにおいて「詳細を最終回で明かす」と述べていたが、これは完全版第8巻のあとがきで明かされた。こうした点から、作品としてのサード・ガールは完全版第8巻で終了したと考えられる。
トピックス
- 1986年から1987年にかけて、夜梨子がNTT中国総支社のキャンペーンキャラクターとして採用された。第25話「夜梨子フロム広島」が描かれたのもこのころである。
- 登場人物の出身校は当初イニシャル表記で隠していたが、夜梨子の大学進学ごろからK大→神大、R学院→六甲学院と明らかになった。
- 夜梨子の自宅は神戸市灘区六甲町という設定になっている。また阪急電車の利用者であることを示唆するセリフがあることから、阪急六甲駅に近いエリアと想定される。涼と美也の暮らすマンションは神戸市中央区北野町にある設定で、名称は「北野ルイ・ハイツ」である。
夜梨子の生年設定の削除について
当作品においては、作品中の時間と初出掲載時の時間は常に一致しているのが特徴である。たとえば、1984年6月号での掲載分は1984年6月のストーリーであり、また、執筆時点での神戸の街がそのまま登場する(ただし、全編が過去の回想のストーリーだった第32話「ロマンス-1982」および、連作となった第36話「ア・リトル・オブ・ユーⅠ」から第39話「ア・リトル・オブ・ユーⅣ」のうちの第37話から第39話についてはこの限りではない)。
COMIC劇画村塾連載中は登場人物の年齢と時間経過はシンクロしていた(現実の時間で1年が経過すると、ストーリー上も1年経過し、同様に登場人物も1歳年齢を重ねており、ずれがない)が、その後の連載中断でブランクが発生したにもかかわらず、再開後は中断時の続きとなった。ところが、当作品における作品中の時間と初出掲載時の時間の一致の原則は守られたため、本来の設定年齢と作品中の時間の関係にずれが生じることになった。たとえば、短大生の夜梨子が和臣とハーバーランドでデートをするシーンがあるが、本来の設定である1970年生まれの場合、ストレート進学で短大生になっているのであれば、その時点ではハーバーランドはまだ建設途中であるので、このようなシーンはありえない。
このこともあり、単行本6巻までは夜梨子のプロフィールは1970年3月3日と記載されていたが、7巻以降(のちの文庫版、完全版も同様)は生年の設定が削除されている。