貝毒

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貝毒(かいどく)とは、魚介類が生産する毒物マリントキシン)の一種で貝類の毒(動物性自然毒)を指す。

概説

毒化の原因は渦鞭毛藻など海水中の有毒プランクトンを捕食したを蓄え、毒化した貝を食べた事による食中毒症状を言い、一般的に「貝に中(あた)る」と言う。毒素は加熱により無毒化することもなく、蓄積で貝の食味は変化しない。

毒化した貝を食べることで消化器系下痢)と神経系中毒症状を引き起こし、死に至る場合もある。日本では下痢性貝毒、麻痺性貝毒の発生があるが、神経性貝毒と記憶喪失性貝毒は、発生報告はない。

毒性をもつプランクトンは水温の上がり始める 4月ごろから5月ごろの期間に発生することが多い。このため都道府県の水産担当部局では、冬の終わりから海水中のプランクトンや貝の検査を行い、毒の量を検査し安全を確かめている。基準値は可食部1グラムあたりの毒力が麻痺性貝毒4 MU、下痢性貝毒0.05 MU以上になった場合で、出荷停止措置が執られる[1]。この措置は、貝自身の代謝により貝毒がなくなったことが検査で確認されれば解除される。潮干狩りなどの自己採集では、中毒が表面化しない場合も有る。

貝の種類により、毒の「蓄積しやすさ」および「排泄(代謝)」の速度は異なる。つまり、同一海域産であっても、貝によって毒化の期間が変わり、中毒を起こす場合と起こさない場合がある[2]ホタテガイムラサキイガイは比較的毒化が長期間続き、カキは短期間である。

貝毒の種類

下痢性貝毒

下痢性貝毒 (DSP: Diarrheic Shellfish Poison)

  • 毒性分オカダ酸 (okadaic acid, OA)、ディノフィシストキシン (dinophysistoxin, DTX)、ペクテノトキシン群 (PTX)[3]イエッソトキシン (YTX) 群などによる。
  • 毒化原因:、渦鞭毛藻類のDinophysis属 (D. acuminata, D. fortii, D. norvegica, D. acuta) が原因生物とされているが、下痢性貝毒成分を検出しないD. cuminataが採集されることもある。さらに、Dinophysis属の発生量と毒量値には、正の相関関係が無いことも報告されており、Dinophysis属以外の原因生物の存在が示唆されている[4]
  • 原因となる貝:ホタテガイ、ムラサキイガイ、アサリウバガイ(ホッキ)などほとんどの二枚貝で起こる。毒性分は中腸腺に蓄積される。
  • 中毒症状:毒化貝の摂食により発症する。消化器系の食中毒症状で、激しい下痢、吐き気、嘔吐などを起こすが致命的ではない。下痢症状を起こさない程度の低濃度摂取を続けた場合の慢性毒性は解明されていない[5]。DTXは発ガン性が示唆されている[4]

麻痺性貝毒

麻痺性貝毒 (PSP: Paralytic Shellfish Poison)

  • 毒性分サキシトキシン (saxitoxin)、テトロドトキシン (tetrodotoxin, TTX)、ゴニオトキシン (gonyautoxin, GTX) などによる。
  • 毒化原因:、渦鞭毛藻類の Alexandrium tamarenseGymnodinium catenatum、ビブリオ属の Vibrio alginolyticusなど。
  • 原因となる貝:ホタテガイ、アサリ、カキ、ムラサキイガイ、ヒラオウギ、ヒオウギガイキンシバイ、貝以外でマボヤ など。毒性分の蓄積部位は貝の種類によって異なるが、多くの種では中腸腺に蓄積されるが、キンシバイは筋肉も毒化する。北海道では、養殖ホタテガイが毎年夏頃になると毒化している。長崎県橘湾で採集した肉食性巻貝キンシバイNassarius (Alectrion) glansでフグ毒と同じテトロドトキシンによる中毒が報告されている[6]
  • 中毒症状:毒化貝の摂食により発症する。フグ中毒に類似しており、最悪の場合呼吸麻痺を起こして死に至る。
  • 加熱によって毒性は失われない。

神経性貝毒

神経性貝毒 (NSP: Neurotoxic Shellfish Poison)

  • 毒性分ブレベトキシン類 (Brevetoxin, BTX) などによる。
  • 毒化原因:、赤潮の原因プランクトンのひとつ有毒渦鞭毛藻のカレニア・ブレビス (Karenia brevis)。フロリダ、ニュージーランド、メキシコ湾で多発し、有毒プランクトンを摂食した広範囲の魚介類が毒性を持つ。
  • 原因となる貝:カキ、タイラギなど、
  • 中毒症状:毒化貝の摂食により発症する。口内の灼熱感、紅潮、運動失調などの症状を起こす。

記憶喪失性貝毒

記憶喪失性貝毒 (ASP: Amnesic Shellfish Poisoning)

  • 毒性分アミノ酸の一種ドウモイ酸 による。南西諸島などに生息する紅藻類のハナヤナギも毒を持つ。
  • 原因となる貝:ムラサキイガイなど、
  • 中毒症状:毒化貝の摂食により発症する。消化器系の食中毒症状のほか細胞の異常興奮により海馬が破壊され、最悪の場合には記憶喪失を起こし死に至る。1987年11~12月、カナダ東岸で中毒が発生。

外傷が原因

  • 毒性分はコノトキシン (conotoxin) などによる。毒化原因は、渦鞭毛藻 (Gymnodinium breve)。
  • 原因となる貝:温暖な海域に生息するイモガイが持つ毒である。
  • 中毒症状イモガイによる外傷(刺傷)により発症する。全身の麻痺。死亡例有り。加熱すれば食べても食中毒は起こさない。
  • 鎮痛剤として利用されている。

巻貝(ツブ)中毒

  • 毒性分はテトラミンなど
  • 原因となる貝エゾバイ科巻貝ツブ)ヒメエゾボラガイやエゾボラモドキなどの唾液腺に含まれるテトラミン毒素が原因[7]
  • 中毒症状:視覚異常、めまい等
  • 加熱によって毒性は失われない。

治療方法

血清や解毒剤などの特異療法は確立されていない、対症療法として胃洗浄人工呼吸が行われる。

貝以外の生物の貝毒

毒化した二枚貝を多く捕食するケガニの近縁種のトゲクリガニなどで、毒化する例が報告されている。貝毒発生水域で捕獲される個体は、肝膵臓部(カニミソ部)に有毒成分を蓄積することがある[8]。これは、動物質の餌を多く摂食していることによる[9]

脚注

  1. 下痢性貝毒財団法人 日本中毒情報センター
  2. テンプレート:Cite journal
  3. 下痢性貝毒ペクテノトキシン6の精製と毒性評価 平成19年中央水産研究所主要研究成果集
  4. 4.0 4.1 テンプレート:PDFlink 北海道大学大学院 水産科学研究科
  5. 有毒プランクトンと貝毒発生 (解説)(独)水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所
  6. テンプレート:Cite journal
  7. 自然毒のリスクプロファイル:巻貝:唾液腺毒 厚生労働省
  8. テンプレート:PDFlink
  9. テンプレート:PDFlink

関連項目

外部リンク