XMODEM
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XMODEM(えっくすもでむ)は、バイナリ転送プロトコルの一種である。128バイト単位で非同期通信を行う。開発者の Ward Christensen がパブリックドメイン扱いで仕様を公開したため、パソコン通信で広く使われた。XMODEMを元に考案されたプロトコルも多く、またXMODEM自身にもいくつかのタイプがある。
特徴
- 構造が簡単。ただし転送効率が悪い。
- 128バイトもしくは1024バイト単位でデータを転送する。
- エラー検出に8ビットのチェックサムもしくは16ビットのCRC符号を利用する。
- 転送エラーがあった場合、エラーのあったブロックを再送することができる。しかし指定したブロックからやり直す機能はない。
- ファイル名やファイルサイズ、タイムスタンプなどのファイル情報を転送する機能はない。
- 一度に転送できるのは1ファイルのみ(バッチ転送不能)。
- ファイルの末尾がEOF文字(1Ah)であった場合にファイルの破損を招く可能性がある。データブロックのパディングにEOF文字を使用するが、ファイルサイズを転送する機能がないので、それがファイルデータの一部なのか「詰め物」なのか判別できないためである。
- コントロールコードのクォート(置換)処理を行わない。このため、XON/XOFF文字によるフロー制御を行っている場合には不具合をきたす可能性がある。
XMODEMの種類
- XMODEM/SUM
- 128バイト単位でデータを転送し、エラー検出に8ビットのチェックサムを使用する。単に "XMODEM" といった場合は XMODEM/SUM を指す場合が多い。
- XMODEM/CRC
- 128バイト単位でデータを転送し、エラー検出に16ビットのCRCを使用することで信頼性の向上を図ったもの。
- XMODEM/1k
- 1024バイト単位でデータを転送し、エラー検出に16ビットのCRCを使用することで転送速度と信頼性の向上を図ったもの。
- Flying-XMODEM
- 本来はデータブロックを全て受け取り、エラーがないことを確認した上で送信側に送るACKを、データブロックを受け取り終わる前に先に送ってしまう(フライングする)ことで転送速度の向上を図ったもの。-/SUM、-/CRC、-/1kのいずれに対しても使用される。規約違反であり、性質上エラーがあっても回復することができない。
手順
SOH、STX、EOT、ACK、NAK、CANの6つのコントロールコードと文字 ’C’(43h) を使用して通信制御を行い、後述するデータブロックの単位でデータを転送する。
基本的な流れ
受信側 | 送信側 | |
---|---|---|
NAK(送信要求) | → | |
← | ブロック1 | |
ACK(肯定応答) | → | |
← | ブロック2 | |
ACK | → | |
(中略) | ||
← | 最終ブロック | |
ACK | → | |
← | EOT(転送終了) | |
ACK | → | |
(通信終了) |
- 受信側が送信要求としてNAKを送出する。XMODEM/CRCもしくはXMODEM/1kではNAKではなく ’C’ を送出する。
- 送信側が最初のデータブロックを送出する。
- 受信側はブロック番号、チェックサムやCRC符号を確認し、受信したデータにエラーがないことを確認した後にACKを送出する。Flying-XMODEMではデータブロックを受け取り終わる前にACKを送出してしまう。
- ACKを受けた送信側は次のデータブロックを送出する。全てのデータを送出するまでこれを繰り返す。全てのデータを送出し終わった場合は、送信すべきデータが終了したことを示すEOTを送出する。
- 受信側がACKを送出し、通信を終了する。
エラーが発生した場合
受信側 | 送信側 | |
---|---|---|
← | ブロック7 | |
ACK | → | |
← | ブロック8 | |
(ブロック8に何らかのエラーがあった) | ||
NAK(再送要求) | → | |
← | ブロック8(再度同じブロックを送出) | |
ACK | → | |
← | ブロック9 |
ブロック番号がおかしい、チェックサムやCRC符号とデータの間に矛盾があるなどのエラーが発生した場合、受信側はACKの代わりにNAK(否定応答)を送出する。NAKを受信した送信側は再度同じデータブロックを送出する。ブロック番号を指定して送信を要求する機能はないため、ブロック番号が連続しない場合やFlying-XMODEMの場合は中断処理(後述)を行うことになる。
中断処理
一定時間待っても相手側からの応答がない、Flying-XMODEM転送中にエラーが発生したなど、何らかの事情により転送途中に通信を終了させたい場合はCANを送出する。これは受信側・送信側のどちらが送出しても良い。
データブロック構成
ヘッダ | データブロック番号 | データブロック番号の1の補数 | データ | チェックサムもしくはCRC符号 |
---|---|---|---|---|
8ビット | 8ビット | 8ビット | 128バイトもしくは1024バイト | 8ビットもしくは16ビット |
- ヘッダ
- データのサイズを表す。128バイトであればSOH、1024バイトであればSTXをセットする。
- データブロック番号
- ブロック番号をセットする。1から開始して1ずつカウントアップし、255の次は0になる。
- データブロック番号の1の補数
- ブロック番号の1の補数(全ビットを反転させたもの)をセットする。
- データ
- 送信するデータを128バイトもしくは1024バイト単位でセットする。送信するデータが128バイトもしくは1024バイトに満たない場合はEOFでパディングする(空いた部分を埋める)。
- チェックサムもしくはCRC符号
- 8ビットのチェックサム、もしくは16ビットのCRC符号をビッグエンディアンでセットする。
発展
XMODEMは効率があまり良くないため、これを改良したYMODEM、ZMODEMなどが後に開発された。