法の不遡及

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テンプレート:複数の問題 テンプレート:統合文字 法の不遡及(ほうのふそきゅう)とは、実行時に合法であった行為を、事後に定めた法令によって遡って違法として処罰することを禁止する、大陸法系近代刑法における原則。 事後法の禁止遡及処罰の禁止法律不遡及の原則ともいう。

概要

大陸法英米法どちらにおいても採用された原則であり、「国家権力によって後付けで何でもあり」になってしまう事態を防止する原則である。フランス人権宣言第8条にその原型がある。又、アメリカ合衆国憲法第1条第9節ならびにドイツ連邦共和国憲法第103条2項に規定がある。戦後日本では、刑法の自由保障機能(罪刑法定主義)の要請によって認められた原則である。市民的及び政治的権利に関する国際規約(自由権規約)15条にも同様の定めがある。

但し、この原則は、刑事被告人の利益のためのものであるため、刑事被告人に有利になる場合は、この限りでない(例えば、行為後に法定刑が軽減された場合、軽い方の刑に処せられる。例として、尊属殺人罪の廃止、犯行時の死刑適用年齢が16歳だったのを18歳へ引き上げ、死刑制度廃止前に死刑になる犯罪を犯した場合などが挙げられる)。

「法律なくして刑罰なし」の法諺に象徴される罪刑法定主義思想はローマ法に起源を持つものではなく、1215年のマグナ・カルタに淵源をもち17世紀末の西欧革命期に欧米で確立した法概念である。現代でもコモン・ローを背景とする英米法思想では比較的寛容であり、また行政措置や民事裁判においてはしばしば法の不遡及について例外措置が取られる。国際法においては自由権規約15条2項に不遡及の例外が言及されており国際慣習法(コモンロー)に配慮したものである。

法の不遡及に反するという指摘がある近現代の立法例・裁判例

戦犯法廷

第二次世界大戦以前においては、国家機関として行為した個人には、刑事免責が認められるとされていた(国家行為の法理)。しかし第二次世界大戦において連合国はニュルンベルク原則[1]を提示したため法の不遡及の論点が生じ、敗戦国の指導者及び協力者達を国際法上の「犯罪者」として責任を問うたため、この処置は法の不遡及に反するという指摘がなされている[2]。一方でドイツ第3軍事裁判所[3]は、立憲国家の成文憲法のもとで妥当している事後法の遡及禁止原則は国際法(ここでは国際慣習法・普遍的な国際法・コモンロー)には適用されないと判示しており、条約や協定など国際的に承認された実体的な規範(モスクワ宣言・ロンドン協定)が法律を超える法として実在しており、仮にその条約をドイツが承認していないとしても殺人や暴行などがドイツ刑法上の犯罪類型に該当する限りにおいて遡及立法の排除原則によっても斥けられないとしている[4]。なおこの点については軍事裁判所は軍律審判であり占領軍が占領地においてハーグ陸戦条約においても認められた軍事行動(強制外交手段)の一環である[5]点については注意が必要である。

不作為責任

薬害エイズ事件厚生省官僚の不作為責任が追及されたが、事件発生当時不作為が罪になるという感覚は存在しなかったテンプレート:要出典テンプレート:独自研究範囲

新規の禁止

武器ドラッグポルノグラフィなどの禁止は、常に強まる傾向があり、その場合、過去に合法的に入手した財産を破棄させられる。所持禁止の法理を没収とみなせば法の不遡及に背くとも考えられるが、日本でもそれ以外の国でも問題なく施行されている。

また、アメリカ合衆国における禁酒法のように、法の施行前から所持していたの摂取を禁止しなかったことが一因で、法の効力が大きく低下して法が廃止に至った例もある。野球の反則投球の一つにスピットボール(ボールにツバをつける)があるが、1920年アメリカ大リーグでこれが禁止された際、その時点でスピットボールを得意にしていた投手には引退まで使用が認められている。

ドイツ

亡命企図者に発砲、これを殺傷した旧東ドイツの国境警備兵に対する、統一ドイツ法による刑事裁判。当時の東ドイツ法では、当然、当該行為の違法性は阻却されていたので、テンプレート:要出典範囲テンプレート:誰2

韓国

大韓民国憲法第13条1項において、罪刑法定主義が採用され、第13条2項において遡及立法による財産の剥奪も禁じられているが、以下の法律が施行され、適用(私財の国家への没収、追徴、死刑判決(全斗煥,後に特赦)など)が行われている。

戦後日本

日本においても法の不遡及原則が採用されており、憲法刑法刑事訴訟法にそれぞれ規定がある。まず、日本国憲法第39条前段に規定されている。この規定を受け、刑法6条に犯罪後の法律によって刑の変更があった場合、その軽い刑によって処罰するとの規定が設けられた。判決前に法改正によって刑が廃止された場合には、免訴の言い渡しがされる(刑事訴訟法第337条第2号)。判決があった後に刑の廃止、変更または大赦があった場合には、それを理由として控訴申し立てができる(刑事訴訟法第383条第2号)。また、再審事由ともなる(刑事訴訟法第435条)。

なお、日本法における判例は、法源とされない(異なる学説も存在)ため、判例変更による解釈の変更は、法の不遡及の問題でない。しかし、理論上、違法性の意識の可能性の欠如による故意の阻却の問題や期待可能性の欠如による責任阻却の問題を生じうる。

刑事訴訟法改正による、時効の延長・廃止の時効進行中の事件に対する適用が、日本国憲法第39条に違反する可能性が指摘されている。また、いわゆる池袋駅構内大学生殺人事件では、被害者の父が時効の延長は法の原則をゆがめるとの理由で捜査の打切りを求める要望書を2012年4月16日に警察庁に提出している。

原子力損害賠償支援機構法は、福島第一原子力発電所事故の処理に際して電力各社に拠出を求めるものとなっているが、これは事後法の遡及適用であり法理論的に根拠がないという指摘がある[6]

公務員の給与は夏~秋の人事院勧告(地方公務員では人事委員会)によって改定され、それが4月にさかのぼって冬に実施されるが、マイナス勧告の場合はこれが不利益遡及になり法の不遡及に反するとして労働組合が抗議している。訴訟にもなっているが不利益遡及には当たらないとして組合側敗訴となっている。

1995年にオウム真理教の一斉逮捕の際、不遡及原則に反するのではないかとも見られる、ぎりぎりの法改正があった。

出典

  1. 国際法上の犯罪を国家に帰属させるのではなく個人に帰属させるという原則。「国際法上の犯罪は人により行われるものであり、抽象的な存在によって行われるものではない。したがって、当該犯罪を行った個人を処罰することによってのみ、国際法上の犯罪規定は履行されうる」Office of United States of Counsel for Prosecution of Axis Criminality,Nazi Conspiracy and Aggression. Opinion and Judgement(1947),P.53 。直接の引用は「個人の処罰と国家責任の賦課による「ジェノサイド罪」規定の履行」木原正樹(神戸学院法学第38巻1号2008.9)[1]
  2. 「戦争犯罪と法」 多谷千香子著 岩波書店 ISBN 4000236660
  3. アメリカ軍の管轄裁判所であり3人の判事はすべてアメリカ人であった
  4. 「ナチスの法律家とその過去の克服-1947年ニュルンベルク法律家裁判の意義-」本田稔(立命館法学2009年)[2]P.19-22
  5. 「近代日本に於る参審の伝統」石田清史(苫小牧駒澤大学紀要、第14号2005.11)P.61、PDF-P.63[3]
  6. 井上薫 『原発賠償の行方』 新潮社〈新潮新書〉2011年、132頁。


外部リンク

関連項目


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