「洪水はわが魂に及び」の版間の差分
(相違点なし)
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2014年6月19日 (木) 02:30時点における最新版
『洪水はわが魂に及び』(こうずいはわがたましいにおよび)は日本の小説家・大江健三郎の純文学長編小説。1973年に発表され野間文芸賞受賞。『個人的な体験』から『ピンチランナー調書』に至るまでの作品群のうちの一つで、息子の大江光の影響を受けた作品となっている。
主人公の大木勇魚(おおき いさな)の息子のジンは、医師に白痴と診断された子供である。ジンは少なくとも五十の鳥の声を聞き分ける事が出来、-センダイムシクイ、ですよ。といって報告をする習性があるが、この特徴は大江光の幼少時の癖である。
梗概
大木勇魚は知的障害者のジンと共に、東京郊外の核避難所跡に籠もり、瞑想によって「樹木の魂」「鯨の魂」と交感する。
勇魚は「自由航海団」の若者たちに出会う。そのリーダーである喬木は、「自由航海団」について、”来たる大地震による東京崩壊を逃れる為に予め海上に船で出る目的を持った集団”と語る。しかしその主要メムバーは社会にうまく適応できなかった人間たちで、反社会的集団と化して武装し、軍事訓練を積んでゆく。
勇魚は、自分が妻の父である保守系の大物政治家「怪」(け)の個人秘書であった時に犯した罪を「自由航海団」のメムバーに打ち明けたことで彼らと打ち解け、共に核避難所跡をアジトとする。
殺人、強姦、リンチといった「自由航海団」の犯罪行為が写真週刊誌のスクープや逮捕されたメムバーの自供によって次々と世間に露呈すると、アジトは機動隊に包囲されて銃撃戦へと発展する。
勇魚はジン、ドクター、伊奈子、喬木を核避難所から脱出させ、多麻吉と共に最後まで篭城を続ける。
その中で勇魚は、自らが自認する樹木や鯨の代理人とは僭称に過ぎず、それらを殺さんと謀る人々と同じ側の人間であった事を悟る。そして機動隊の放水によって水で満たされる核避難所の中で「樹木の魂」と「鯨の魂」に最後の挨拶を送る。「すべてよし!」
主要メムバー
- 喬木 - 自由航海団のリーダー。メンバーの中では比較的冷静な方の人物。最後に伊奈子とジンと共に機動隊に投降する。
- ボオイ - 直情径行型の人物。警官隊にブルドーザーでけしかけるが、撲殺される。
- 伊奈子 - 性的に奔放な性格。ジンのお守り役。
- 縮む男 - 自分は縮みつつあると妄想する人物。メンバーの写真を雑誌社に売り込んだ廉でリンチを受けて死ぬ。
- 赤面 - あだ名はすぐに顔が赤くなることから。最後にダイナマイトで自爆して死亡。
- 多麻吉 - 自由航海団のサブリーダー的存在。性格は激しい。最後までシェルターに勇魚と共に籠る。
- 無線技士 - あだ名の通りの役割。シェルターの上のアンテナを直そうと屋上に出るも機動隊に射殺される。
- ドクター - あだ名の通りの役割。ジンの水疱瘡を治療したり、催涙弾で負傷した眼の治療を担う。
出版
- 『洪水はわが魂に及び』(新潮文庫)
- 上巻、ISBN 4-10-112612-7,
- 下巻、ISBN 4-10-112613-5