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[[画像:Implosion_Nuclear_weapon.png|200px|thumb|right|長崎型原爆の模式図。Fast explosiveが燃焼速度の速い火薬、Slow explosiveが燃焼速度の遅い火薬である]] '''爆縮レンズ'''(ばくしゅくレンズ)は、[[原子爆弾]]に[[核分裂反応]]を発生させるための技術のひとつ。 原子爆弾の構造は、大きく分けて、'''[[ガンバレル型]]'''([[広島市|広島]]に投下された原子爆弾「[[リトルボーイ]]」に代表される方式)と'''インプロージョン方式'''([[長崎市|長崎]]に投下された「[[ファットマン]]」に代表される方式)の二種類に分類されるが、爆縮レンズはインプロージョン方式の中心となる技術である。 ガンバレル型は構造が単純であるが、プルトニウムを使用できず、濃度90%以上の[[高濃縮ウラン]]を用いるしかない上に、小型化が難しく核分裂の効率も低いため、使用された唯一の例は広島の「リトルボーイ」においてのみであり、人類初の原子爆弾である[[トリニティ実験]]の「[[ガジェット (爆弾)|ガジェット]]」と、長崎の「ファットマン」以降の世界の原子爆弾の多くが爆縮レンズを用いたインプロージョン方式となっている([[核砲弾]]にはガンバレル型の採用例がある)。 == プルトニウム原爆の課題 == [[画像:Implosion bomb animated.gif|200px|right|thumb|色の濃いコブ状の部分が「遅い火薬」。これにより点火位置と中心を結んだラインでは到達速度が遅くなる。また、点火位置から点火ユニットの端を通り、遠回りして中心に至るラインでは速い速度が維持され、結果として中央ユニットに同時に爆発が到達する。]] [[プルトニウム]]を用いる原子爆弾では、確実に核分裂反応を起こし、[[臨界状態|超臨界状態]]にするために、周囲から強い力をかけて中心部を圧縮する必要がある。このように、周囲全体から圧縮をかけることを、インプロージョン([[爆縮]])という。 爆縮には、[[火薬]]が[[燃焼]]した時に発生する衝撃波を用いる方法が考案されたが、中心に球形のプルトニウムを置き、その周囲を火薬でぐるりと包み込んで、電気仕掛けで複数の位置から点火しただけでは、それぞれの点火位置から最も近いプルトニウムだけに力(圧縮力)が先に到達してしまい、核分裂反応が発生しない。また、圧縮力の到達にむらが生じると、プルトニウムもろとも木っ端微塵に飛び散ってしまうため、プルトニウムの周囲全体に均等な力を同時にかけ、圧縮力が逃げないようにすることが必要とされた。 == 爆縮レンズの原理 == [[マンハッタン計画]]の科学者らは、爆破加工に用いられていた[[爆薬レンズ]]を応用し、燃焼速度の'''速い火薬'''と'''遅い火薬'''を組み合わせる方法を考えた。 球形のプルトニウムの周囲を火薬で包むという構造は同じだが、前述のように点火位置に近いプルトニウムだけ先に衝撃が伝わる事を防ぐために、遅い火薬をコブ状に追加した。これにより、点火位置の近くで先に伝わってしまう圧縮力が、速度の遅い火薬のコブで減速され、少し遅れてプルトニウムに到達するようになる。逆に、点火から離れた位置では速い火薬が多くなっているため、圧縮力が高速で伝わるようになり、球形のプルトニウムの全ての位置で、圧縮力と伝わるタイミングが一致するようになった。 この圧縮力の伝わり方が[[レンズ]]の中の光に似ているため、爆縮レンズと呼ばれた。 == 開発とその後 == [[画像:Implosion nuclear weapon design3.gif|200px|thumb|right|爆縮レンズの構造]] [[画像:Trinity Gadget.jpg|200px|thumb|right|世界初の原子爆弾、ガジェット(Gadget)。複数の点火装置に伸びるケーブルが見える]] 開発に至るまでは火薬の燃焼速度等、様々な条件が一致することが求められ、当時の[[火薬学]]で用いられていた[[CJ理論]]では取り扱えないほど精密な計算を要求されたため、新たに[[ジョン・フォン・ノイマン]]らによって[[ZND理論]]が開発された。 ZNDモデルでは先行する衝撃波は不連続面として扱われるが、双曲型[[偏微分方程式]]を差分近似で数値的に解こうとすると衝撃波の不連続面は特異点になってそこで解が発散してしまい計算することが出来なくなってしまう。そこで[[ジョン・フォン・ノイマン]]は[[人工粘性]]の概念を取り入れることで上放物型[[偏微分方程式]]の差分近似に置き換えて計算することに成功した。その結果、曲がりなりにも衝撃波の数値計算ができるようになった。しかし、[[ZND理論]]は大変に複雑で膨大な計算を要したため[[1940年代]]当時の[[ロスアラモス研究所]]に集められた[[ジョン・フォン・ノイマン]]らの数学者達の手によっても、優に10ヶ月以上の時間を要した。当時は、[[コンピュータ]]が無かったためである。 計算の結果、点火装置の数と、それに応じるように配置された火薬のコブは、原子爆弾一つにつき32個が最適であると結論された。しかし、当時の起爆装置では32個の雷管を同時起爆する際に生じる誤差をナノ秒単位に収めることが出来なかった。そのため、新しく[[起爆電橋線型雷管]]が開発された。 原子爆弾が[[切頂二十面体|32面体]](切頂二十面体)の構造を取ることは当然機密であったが、マンハッタン計画に参加した[[セオドア・ホール]]ら科学者の一部は、将来アメリカが核を独占する世界になることを恐れて、これらの情報を[[ソビエト連邦]]に流した。ソビエト連邦はこれを基に[[第二次世界大戦]]後すぐに原子爆弾の開発を始め、スパイや共産主義思想を持つアメリカ科学者などからの継続的な技術情報の提供を受けながら4年後の[[1949年]][[8月29日]]に核実験([[RDS-1]])を行った。 その後も爆縮レンズの構造は機密扱いであり、[[トリニティ実験]]の映像なども一部がカットされた状態で公開されていた。特に点火装置の位置や数は当時の最高機密に属するものであった。 最初の爆縮式原爆である[[ファットマン]]では爆縮レンズの爆薬だけで2500キロにもなり重量の半分以上を占め、直径は137.8センチと大きく原爆が大型化する最大の原因になっていた。 このため、後年では爆縮レンズの小型化が重要な課題となり、様々な方法によって最終的には直径30センチに収まるほどにまで小型化されている。 爆縮レンズは極めて高度な技術である。単純な爆発の同期、圧力の均一化だけが問題なのではなく、他にも様々なノウハウが必要であるため、他国の設計や装置の単純な流用も困難である。しかし、実際には[[インド]]に続いて2006年に非先進国の[[朝鮮民主主義人民共和国|北朝鮮]]がプルトニウム型の原爆実験を行い爆縮レンズについて一定の成果を得たとされる。 == 参考書籍 == * 「原子爆弾―その理論と歴史」(ISBN 978-4062571289) * 「核兵器のしくみ」(ISBN 978-4061497009 ) == 関連項目 == * [[爆薬レンズ]] == 外部リンク == * [http://www10.plala.or.jp/antiatom/jp/Rcrd/Basics/jsawa-10.htm 日本原水協 核兵器をなくす『反核ゼミ』 第10回 爆縮式となったプルトニウム原爆 ―自発的核分裂の苦悩―] {{DEFAULTSORT:はくしゆくれんす}} [[Category:原子爆弾]] [[Category:爆薬]]
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